唇を濡らす冷めない熱
「どうしたんですか、横井さん。凄い眉間のしわ……」
そう眞杉さんから言われて慌てて顔を上げる、すると彼女はギョッとした表情で私を見る。眞杉さんは大きな眼鏡をしているが、その表情は豊かでとても分かりやすい。
それにしても、凄い眉間のしわっていったいどういう……?
「ご、ごめんなさい! 私何か横井さんを怒らせるような事言っちゃいましたか?」
慌てる眞杉さんに、私はますます訳が分からなくなる。どうして? そう訊ねようとした時、カウンターの方からこちらに向かってくる梨ヶ瀬さんを囲んだ女性社員達が目に入った。
どうしてこっちに向かって来るのよ、どう見たってそんな人数の席は空いてないでしょ!
そう、私の周りは見てわかる通りもうほとんど席が空いていない。空いているのは私の隣の席と……眞杉さんの横だけだ。
絶対こっちには来るなと祈っているのに、彼らは真っ直ぐにこのテーブルの横まで来て……
「席、空いてないねえ?」
そんなのちょっと見れば分かるでしょう? いちいちここまで来て確認しないと分かんない程の近眼なんですか。そんな梨ヶ瀬さんののんびりした口調にイライラしながら箸でから揚げを刺す。
「ねえ、梨ヶ瀬さん。あっちに行きましょう、ここじゃあ私達が一緒に座れません」
ええ、是非そうしてください。さっさとその女性社員を引き連れてどこへでも! 目の前の眞杉さんの顔色がどんどん悪くなっている気がするが、こっちが気になりそれどころじゃない。