唇を濡らす冷めない熱
「えっと……」
「話って何? あなたはその男の関係者ってこと?」
私が返事をしかけたところで、いきなり話に割り込んでくる梨ヶ瀬さん。二人に対していつもよりも優し気な笑顔を見せているが、その瞳は全く笑ってない。
梨ヶ瀬さんは私を自分の少し斜め後ろに立たせるようにして、二人との会話を続ける。
「あの、私達……その、横井さんに謝りたいと思って」
「つまりあなたは、その男が彼女に何をしていたかを知っているってこと?」
謝罪をしたい、つまりそれはこの男性が私をストーカーしていた事実を認めるという事だろうか? でもどうしてこの女性まで?
「あの、私はこの人の……」
「ちょっと待って、ここじゃあ人目に付きすぎる。周りに聞かれない方が良い、近くに静かなカフェがあるからそこで話そうか」
女性の話を途中でストップさせると、梨ヶ瀬さんはそう言うとカフェへの道案内をするようにさっさと歩きだした。
その間も梨ヶ瀬さんは私の手を握って、ストーカの男性から一番離れた場所を歩かせていた。
「……それで、さっき言いかけた貴女とその男の関係は? まさか彼は既婚者だったってことはないよね」
少し大きめのテーブル席、飲み物を注文し終えて私たちは真っ直ぐに向き合ってた。穴場の店なのか席に座っているのは年配の方が多く。落ち着いたクラシックが流れとても素敵な雰囲気だ。
……こんなゴタゴタの話し合いじゃなく、誰かとゆっくり来たい場所ね。そんな事をのんきに考えていると。
「いえ、彼は独身ですし、私はこの人の……ただの幼馴染です」