唇を濡らす冷めない熱
彼が大学生ならば善悪の区別も、やってはいけない行為も人に迷惑をかけた時に取るべき行動もちゃんと分かってるでしょう?
それなのに自分は幼馴染に隠れたまま、すべて変わってもらうなんてありえない。
「それは、その……俺も反省して……」
「そんな話し方じゃ聞こえませんよ、ちゃんと私の目を見て謝れますよね?」
今誰かに庇ってもらってこの場をやり過ごしたとしても、本人が二度とやらないと思ってくれなくては意味がない。
きちんと被害にあった私と向き合ってほしいのだ。そんな思いが伝わったのか、彼はその場で立ち上がり、深く頭を下げて……
「本当にすみませんでした。自分の感情をコントロール出来ず、横井さんに迷惑かけました」
今度はハッキリと聞こえる声で謝ってくれた。隣の女性もホッとした顔で男性の片腕を撫でている。
これでもういいでしょ、傍にいてくれる人がいるしきっと大丈夫。私はそう思ってたのに、ここで梨ヶ瀬さんが待ったをかける。
「ねえ、さっき話してた証拠になる写真や持ち物って、今も持ってきているの?」
「え? はい、鞄の中に入れてきてます。ですが……」
梨ヶ瀬さんの言葉に少し女性は戸惑っていたが、彼が「出して」とだけ言うと鞄から私の隠し撮り写真や小物を出してテーブルに並べた。
その数々を両手で集めてさっさと鞄に仕舞うと梨ヶ瀬さんは……
「これは念のためこっちで預からせてもらうね? 俺は横井さんみたいに簡単にその男を信じるほどお人好しじゃないから」
言い方は優しかったが、彼は今まで見たことないくらい厳しい表情で男性を睨んでいて。まるで次に私に何かあれば、今度こそは許さないと言っているようだった。