唇を濡らす冷めない熱
「それじゃあ、俺たちはこれで……あと、これからは電車の時間もなるべく合わないようにして下さいね?」
「はい、分かりました」
もう一度頭を下げる男女二人を残し、さっさと会計を済ませ喫茶店を出る。この店に次に来るときはもっとゆったりと過ごしたいな、なんて思いながら。
「……その証拠、次があったら本当に使うつもりなんですか?」
「当たり前でしょ? 本当は今だって警察に連れていきたいくらいだよ、横井さんがあの男にああ言わなければね」
意外だった、二度やらないよう脅しなのかと思っていたのに彼は本気の目をしていた。梨ヶ瀬さんは、この出来事に怒りを感じていたらしい。
本当の本当に梨ヶ瀬さんは私のことを……だったりするのだろうか?
「……ところでさ、あの話ってもう終わりだよね? 思ったよりすぐに解決したし」
「あの話って?」
「横井さんがストーカーされている間は、念のために俺の家に住むって話だけど……」
ああ、言われてみれば。だけど今、向かっているのも梨ヶ瀬さんの部屋の方向なわけで。さて、これはどうしようかと考えてるとこちらをじっと見ている梨ヶ瀬さんと目が合う。
……ええと、なんでそんな真剣な眼をして私を見るんですかね、梨ヶ瀬さんは?