唇を濡らす冷めない熱
「横井さん、スマホ鳴ってるよ?」
はいはい、言われなくても分かってます。いいですね、そうやって梨ヶ瀬さんは余裕で笑っていられて!
イライラしながら鞄からスマホを取り出しディスプレイを確認すると……
「し、主任だ!」
慌てて通話ボタンを押してスマホを耳につける。本社勤務になり離れてしまったけれど、長松主任とは今でもこまめに連絡を取っていていい関係でいられてる。
『もしもし、横井さん? ちょっと話しておきたいことがあるんだけど』
「はい、なんです? 話したいことって、もしかして御堂さんとの事だったり……?」
二人はもう婚約している、少し早いが結婚の報告かとニヤニヤしてしまう。私だって二人の事を応援してたし、結婚式も楽しみにしてる。
のだけど……
『やあね、まだ違うわよ。それより横井さんは明日と明後日は空いている? 私と要でそっちに遊びに行こうかと思ってて』
「本当ですか!? 空いてます、空いてなくてもこじ開けます! 御堂さんも一緒に休みがとれたんですね、良かった!」
一瞬スマホを放り投げてしまいそうになった、それくらい主任と御堂さんに会えるのは嬉しい。しかも明日と明後日なんて、サプライズでもされた気分!
「……御堂、要?」
ぼそりとそう呟く梨ヶ瀬さん、そう言えば御堂さんも梨ヶ瀬さんももともと本社から来た人だった。もしかして知り合いだったりするのかもしれない。
そう思ったけれど、梨ヶ瀬さんの事は後回し。今は長松主任との話が一番大事なのだから。