唇を濡らす冷めない熱
「横井さん、顔が酷い事になってますっ! いったいどうしたって言うんですか……?」
眞杉さんの顔色が悪くなったのはどうやら私の所為だったらしく、彼女は慌てた様子で鏡を出して見せてくれた。
その小さな鏡に映された私の顔は眉間に深いしわが寄り、嫌だと感じる気持ちが露骨に表情に出ているようだった。つまり……
「いえ、見ないで済ませたいものほど目に入って来るのはなぜかと思ってね……」
そう言って大きなため息をついたのと同時だった、私の隣と眞杉さんの横の席に食事のトレーが置かれたのは。
「ここ、空いてるよね?」
ニッコリと微笑んで眞杉さんに尋ねるのは、確か別の部署の男性社員だった気がする。そして私の隣でその様子をニコニコと見ているのは、取り巻きに囲まれていたはずの梨ヶ瀬さんで……
ええと、さっきまでいた女子社員はいったいどこに行った?
あがり症の眞杉さんは普段離さない男性社員から話しかけられて、軽くパニックになっている。
お願いだから、嘘でもいいから席は空いて無いって言って欲しい! しかしそんな私の願いもむなしく……
「は、はい! 空いてます、この二つの席はいつも人が座らないのでっ」
余計な情報まで与えてしまう眞杉さんに頭を抱えつつ、チラリと梨ヶ瀬さんの顔を覗きみると彼もまた私の方を見ていて……