唇を濡らす冷めない熱
届かない、その祈り
「主任! もう、なかなか来てくれないから何度そっちに飛んで行こうかと思ったか!」
空港のターミナルで主任を捕まえると、久しぶりだと思い切り彼女に抱きついてみせる。隣に立っている主任の婚約者の御堂さんが冷めた目で見ていても全く気にしない。
むしろ、羨ましいでしょう? と言わんばかりに長松主任に撫でてもらって良い気分に浸っていた。
「横井さんも元気そうね、安心したわ。私も思い切って本社に移動を決めてしまって、仕事も貴女にたくさん引き継いだから……」
「紗綾は気にしなくていいだろう。横井さんがここまで元気なら、きっと新しい上司とも上手くいってるんだろうしな」
相変わらず優しい主任に癒してもらっていたのに、御堂さんの余計な一言で一気にテンションが下がる。ああ、休日にまで嫌な顔を思い浮かべてしまったじゃない。
主任に抱き着いていた腕に力を込める、もちろん彼女が苦しいと感じない程度にだけど。
「あら、今日の横井さんは少し甘えん坊なのね? 新しい仕事に慣れなくて休みが取れず遅くなっちゃったわね」
ふふふ、と困ったように笑う主任。前よりずっと笑顔が柔らかくなったのは、やはり御堂さんのおかげなんでしょうけれど。
「そろそろ紗綾を離してくれないか、横井さん」
どうやら我慢の限界なのか、私達の間に割って入ってくる御堂さん。大人の男のくせにそんな事でヤキモチ妬いてていいんですか?
「伊藤さんの時の恩人である私にまで嫉妬するとか酷くないですか? そんなに心の狭い人に私の大事な主任は任せられないんですけど」
さっきの御堂さんの嫌味がまだ後味悪く残ってる気がして、ついつい喧嘩腰になってしまう。それくらい今の私にとって梨ヶ瀬さんの存在は悪い意味で大きかった。