唇を濡らす冷めない熱
「えええ? 騙されてるって、そんなまさか」
私の言葉が信じられないというような様子の主任、でもそんな事はお構いなしに私は梨ヶ瀬さんへ自分が持っている悪いイメージだけを話す。
良いイメージが無いわけではないが、それを話すのは何だか悔しい気がして。
「いいえ、あの男は絶対に本性を隠しています! 誰にでもにこにこと愛想いいふりをして、裏で何を企んでいるか分かりませんよ?」
主任は梨ヶ瀬さんと会ったことが無いから、彼がどんなに計算高くずる賢い男かを知らないのだ。
あの人は優しい笑顔で近づいて来て、その本心は誰にも見せようとしない。いつだって何を考えているのかさっぱり分からない。
そのわりに何度も私にちょっかいを出して、気を引くような言葉を口にする。訳が分からなくてイライラするのよ!
そんな説明できない私の気持ちを見透かしたように、今度は御堂さんが話に割って入る。
「横井さんは梨ヶ瀬の何がそんなに気に食わない? 確かにアイツには裏表のある男だが、それで君を傷付けたりするような奴ではないはずだ」
御堂さんの言うことももっともだ、梨ヶ瀬さんは私に危害を加えようとしたことなど一度もない。それどころか私を何度も助けようとしてくれて……
迷惑なくらい傍にいたのも、ストーカーを近寄らせないため。今後のためにきっちりストーカー男に釘も刺してくれた。
そんな梨ヶ瀬さんの良さが分からないわけじゃないの。ただこっちのスペースには笑顔で入ってくるくせに、本当の自分も見せずこっちからはスペースに入れようとしない狡さが嫌なの。
でもそれを口にすれば、私は梨ヶ瀬さんの特別になりたいと言っているみたいで気に入らない。
こうやって私の考えはグルグルグルグルと堂々巡りになってしまっている。