悪魔が気に入るお飾り人形!
はじめての『お散歩』
「…ねえよ……あんな……」

ふと目を覚ますと、彼の独り言が聞こえた。

「魔力の補充なんか無きゃ、戻らなくて済むのに……。俺はダメだな…下級だから……」

私が一度も聞いたことがないほど悲しそうな声で、彼は呟いた。

(こんな悲しそうなレイさん、初めて…)

「どうせ帰ったって……。だったらコイツと……」

レイさんは私の頭をそっと撫でる。

「どこが下等なんだよ…。下等な魔物たちより、こいつはずっと……」

(レイさん…きっとここに来たのも、何か事情があるんだ…)

「ああ、朝日が昇る…もう少しだけ……」

レイさんは私を抱きしめ直し、また寝息を立て始めた。


「大っ事なことを忘れてたんだよ、俺!」

「!?」

二人で食事をしていて、レイさんが突然真面目な顔でそう言い出した。

「目、丸くしてる場合じゃないぞ〜?散歩だよ!!」

「え……散歩……??」

なんの事かと思った。

「お前の散歩!!人間は、ときどき日に当ててやんないと弱るらしいじゃん!!」

「……。」
(私は植物じゃないから、そこまで心配しなくても…)

でも彼は至って真面目な顔のまま。

「日に当てないで弱ったら、困るだろ!?」

「は、はい……」

私はまた、レイさんの勢いに押された。

「首輪ってのも買わなきゃなんないか…??リードとかいうやつも…それはいいか、おとなしいしな…!」

(…私のこと、犬だと思ってるのかな…?)

「よし、夕方、な!!俺、さすがに昼は…」

(あ。レイさんは悪魔だったっけ…。悪魔だとやっぱり日の光が苦手だから、だからレイさんは昼前にいつも『実家』に帰るのかな…?)

「ホタル、いい子で待ってろよ〜?首輪は一緒に買うか!」

彼は慌ただしく用意すると、私に着替えを手渡し、いつものように手を振ってから扉の外に姿を消した。

「…チャイナドレスだ……」
(まさか私、これで散歩に行くの…??)


家の片付けをして、持ってきてもらった荷物を確認した。

(ごはんは、まだいいんだよね…?夕方に二人で散歩に行くんだし……)

あとは何もすることが無くボーッとしていると、レイさんのことが思い浮かんだ。

(レイさんはこのチャイナドレスとか、どこから持ってくるんだろう…??魔力を補充、って、どうやってやるんだろう…??)

よく考えたら、お互いのことを何も知らないことに気付いた。
私はいつも何かを疑問に感じても、まあいいや、仕方ないや、って、すぐに考えることをやめる。今回だって、私はそのうち人形にされてしまう…。
きっとレイさんは私の事なんか疑問に思わないと思う。今はただのペット代わりで、人形にそのうちなるだけの、ただの人間。

でも私はレイさんのこと、なんだか……


「ホタル〜!散歩の支度するぞ〜!」

夕方、レイさんがすごく興奮して帰ってきた。

「…お帰りなさい…!」

「なんだ?少し元気が良いみたいだな!さては、散歩に行きたくて仕方なかったな??よしよし、連れて行くからな〜?」

レイさんは私に、ペットにするように頭を撫で、顎の下を撫でた。
そして…

「…。」

少し真剣な顔に一瞬変わった。

「え……」

「…外、ずっと行きたかっただろ…ごめんな……」

そのまま優しくキスされた。
でもその後は何もなかったように、

「さ、着替えだぞ〜!」

そう元気よく言うと、いつものように服を手渡された。

「え…?これ……」

丸襟の付いたかわいい白のワンピース。今までの服からしたら、何の変哲もない普通の。
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