魔族の王子の進む道
事の始まり
二人兄弟である弟が、人間になると言い切って城を出て行った。

兄である魔族の第一王子、ラインデンドは弟を人間界から連れ戻すのに失敗し、かなり怒りを募らせていた。

「奴め…ぬけぬけと…!!あんな人間の小娘なんかと…自分も人間として、だと!?」

初めて見る必死な弟の表情に何も言えなくなってしまい、そのまま帰ってきてしまったのだ。

魔力も他の能力も自分よりずっと下の、何も出来ないと見下していた弟。
何をさせてもヘラヘラと笑い、雑用を懸命にこなしていた弟。

そんな彼が、ここではない『自分の居場所』をいつの間にか見つけていたのが悔しかった。

自分は次期王。魔力はこの国の誰よりも強い。亡くなった両親、もとい国王、王妃よりも強いかもしれない。
それなのに失踪した弟すら連れ戻せなかったとは。

この失態は誰にも言えるはずもなく、弟王子は失踪したまま姿をくらましたとだけ魔界中に広まった。


「低魔族の娘を連れて来るのだ!!」

いま王子はなんと言った?城の者たちは耳を疑った。
彼の花嫁候補には高貴な魔族の娘が何人もいるというのに、低魔族の、と言うことは…

「王子、まさか…!!」

「それだけは…おやめ下さい…!貴方様の名誉にも関わります…それに……」

まさかそこまで怒りを募らせていようとは。
家臣たちが王子の考えを察し、口々に止めようと声を掛けるが、城の王の間に巨大な雷が鳴り響いた。

「黙れっ!!」

恐れおののく城の下々の者たちは口をつぐみ、ピタリと全ての音が止んだ。

「あの忌々しい、不出来な弟の代わりにしてやるのだ…!!怒りが収まらぬ……!!」

明るく温和な第二王子と比べ、兄であるラインデンドは冷たい印象を受けるのが常だった。怒れば皆震え、誰も何も言えなくなるほど。
彼が内心心配していたであろう弟王子が二度と戻らないともなれば、彼の怒りを抑え込む手段は無いに等しかった。

「どうか…ラインデンド様……」

城の者たちの願いも虚しく、泣く泣く、怒りの王子に『生贄』を捧げることになってしまった。
ここまでの王子の怒りは、かつて一度も無かったほどだったのだが…
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