魔族の王子の進む道
「それで兵士様、他の方々はいらっしゃらなかったのですか…?森には魔の胞子が舞っていたといいます。まさか……」

心配そうにしている族長に、彼は仕方無く説明をした。

「…他の者は帰した。あの森に耐えられるのは私の魔力だけだろう。」

「すごい…!!兵士様、強いですね〜!お城の王子様みたい!!」

娘の言葉に彼は内心焦ったが、目を輝かせ、馬鹿正直に感心している呑気な娘に、自分が分かるはずもないと思い直した。
他の者たちも彼が王子だと気付いていないらしい。

「ギダ様、兵士様に、栄養をつけて帰ってもらお?きっと弟王子様のことも探してたんだよ!!」

娘が、彼を見ながら族長にそう提案した。

「な…!」

「それは良いな!お前のことを助けて頂いたのだし、はるばる来て下さったのだから!例え少しの時間でも、感謝の宴を開かなくては!!」

「っ…私は要務がある…!これで…」

低魔族の者たちとなどいられるものか、その言葉を彼は飲み込んだ。
王となる者、どんなに下に見ていても口に出してはいけない。ましてその差別によって、先ほど強く後悔をしたばかりなのだから。

「兵士様、王子様も分かって下さるはずです…!危険を犯し、娘をあの恐ろしい森の中まで助けに行って下さったのですから…!お努めも気がかりでしょうが、兵士様、どうかお願い致します…!!」

「……。」

族長の強い願い出と、王子である彼のせいとも露知らず、無邪気に笑う娘。
内密で来た手前、正体を明かすわけにもいかず、彼は内心頭を抱えた。
しかしすでに小角族達と荷台を引いたサイクロプスは、宴の準備に取り掛かっていた。

「兵士様〜!行きましょう〜!!」

魔力は戻っても疲れをまだ完全に補える程の体力は無く、城の者たちにくたびれた姿は見せたくはない。

「…脳天気な低魔族どもは……」

彼はまたため息をつき、娘と共に蒼月の昇る頃まで待つ羽目になった。


娘と歩いていると、彼女よりも小さな、小角族の子供が何匹か走り寄ってきた。

「ゼラ姉!!」

「姉ちゃだぁ!!」

「よかった!!おかえりなさい〜!!」

「みんなぁ!ただいまっ!!」

娘は満面の笑みで子供らを迎えた。しかし子供は揃って泣いている。
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