魔族の王子の進む道
「どうしたの、そんなに泣いて??」

娘は皆を抱きしめながら聞いた。

「っく……だって…まきづののおじさんがっ……」

「っ…ゼラ姉ちゃはもうかえってこない、っていったんだぁ!!」

娘は首を傾げる。

「??あたしが帰ってこない、って、誰が言ったの??」

「巻角族のおじさんだよ!ゼラ姉ちゃんを王子様のとこにやったらいいって言った…」

「あぁ、あの貴族様??なんでそんなこと言ったんだろう??」

巻角族と言えば、低魔族で魔力は低いが、ずる賢く、商売が上手い者が多いという。

「…貴族だと……?…どうせ名声に逆上せた成り上がりの者だ…そのような輩、品があるわけが無い…。」

彼はすぐに察した。
人当たりが穏やかで頭のあまり良くない小角族のこと、巻角族の者達に上手く言いくるめられ、この娘を自分に差し出す羽目になったのだろうと。

「っ…おじさんが、弟王子様が見つからなくて怒った王子様が、姉ちゃんを死ぬまで痛めつけて閉じ込めるだろう、って言ってたんだ…!」

「わぁぁん!もうかえってこないっていわれたんだ〜!!」

「……」

娘は泣いている子供らに優しく笑って言った。

「王子様は優しいからそんなことしないよ?それにギダ様が、王子様は本当は優しいんだ、って言ってたでしょう?王子様はあたしを帰してくれたよ、だからあたしは帰ってきたんだから!もう泣かないのっ」

帰ってきたとはいえ、無事なんかでは無い。
娘の命の源でもある角を強く絞めあげた上、清らかだった娘の身体を無理矢理散らしたのだから。娘はそれを誰にも言っていない。
それでも娘は変わらず、王子は優しいと言い、事実、王子の為にと危険な森へ弟王子を探しに行ったのだ。

「…こんな娘でも、私のした事を忘れたはずは無い……」

娘は変わらず笑って子供らの頭を撫でた。

「大丈夫、王子様だって、弟の王子様を見つけたらきっと、元気になってくれるから…!」

娘の明るい言葉に、子供らは泣きながら頷いた。そして、近くにいた彼にようやく気付いたらしい。

「…へいしさまぁ??」

「兵士様だぁ…!!」

「兵士様はねぇ、あたしを助けてくれたのっ!」

娘は誇らしげに言った。
< 12 / 27 >

この作品をシェア

pagetop