魔族の王子の進む道
呑気な宴
娘は今、何を思っているだろう。また、弟を探す王子のことを考えているだろうか。

彼は、世界や城で何か異常が起きていないかと気配を確認すると、そっと目を閉じた。


紅月が沈み、蒼月が昇る頃、彼は娘と共に宴の席へと招待された。

「兵士様、こちらへどうぞ…!高魔族の方の口に合うかはわかりませんが、村の者たちが腕によりをかけた食事を、どうぞ召し上がっていって下さい。ゼラ、お前もこっちへおいで。」

「はい、ギダ様!兵士様、行きましょう〜!」

娘は何の気も無かっただろう。
ただ族長に案内され、兵士姿である彼の手を引くために、その手に触れただけ。

「…!あれ…??」

その瞬間、娘は何か思ったらしく、いきなり手を止めた。

「これこれゼラ、失礼になる。声も掛けずに兵士様に触れてはいけないよ。兵士様、とんだ失礼を……」

「…まあ良い。」

「あ…すいません……」

族長に注意され、そう返しながら娘は彼の手と顔を交互に見て、不思議そうにしている。

「…なんだ?」

彼は怪訝な表情で聞く。すると娘は、目を丸くして彼の顔をじっと見つめて言った。

「…兵士様って、王子様そっくりです!」

「!!」

彼は内心焦った。しかし、正体が知れたわけではないらしい。

「兵士様も、何か辛いことがあるんですか??王子様と一緒にいたときと同じ感じがしたから……」

「何…?」

「兵士様、小角族の魔力は高くはありません。しかし皆、一つでも秀でた能力があるのです。ゼラは手で触れた相手の、マイナスの感情を感じることが出来るらしいのです。さあどうぞ兵士様。」

族長は彼にそう説明し、自身のそばの席を勧めた。

「…そうか…城で娘に触れたからか……」

「貴方様に何があったか、ワシには存じ上げません。ですが、ゼラはこの一族自慢の優しい娘。ゼラがそう言うのですから、よほどお辛いことがあったのでしょう。この村でゆっくり過ごされ、少しでも癒やされますよう…。」

「…。」

「兵士様〜、元気出してくださいね!コレとコレとコレ、どうぞ〜!サイのおじさんも来て〜!!」

娘はニコニコと笑い、サイクロプスとともに、彼のもとに何皿も料理を取り分けて持ってきた。
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