魔族の王子の進む道
「ゼラは元気だな〜!」

「おっちゃん、あたしは今日も元気だよ〜!」

「良かったねぇ、ゼラ!」

「ゼラ、良カッタ!!」

城に連れて行かれ、森で倒れたことなど何のその、娘は集落の者たちと笑い合い、楽しげに食事を囲んでいる。

「少々抜けた所はありますが、ゼラはこの村の自慢なのです。本当にありがとうございます……!」


小角族は農産が盛んだった為、野菜たっぷりの素朴な料理が並んだ宴だった。
彼は念の為の毒味を、こっそり自らの出した霧にさせ、しばらく顔に出さぬまま渋っていたが、空腹ではあった為、そっと食器を浄化し、娘が真っ先に持ってきた料理にようやく手を出した。

「…。悪くない……」

城では料理に細かく注文をつけ、誰かと共にすることも無く、幼い頃からたった一人で食事をしていた。
弟は、兄上の邪魔をしないようにと言い、いつの間にか城の下々の者たちと食事をするようになっていたからだ。

純粋に出された物を周りの者達と食べることをしてこなかった為、新鮮だったのかもしれない。

「そう言っていただけると、兵士様に宴を開いた甲斐がございます…!さあ、少しずつでも召し上がってみてください。」


彼は周りを見渡しながら食事をし、気付けばほとんどの、目の前にあった料理を食べ終えていた。

この集落に来てから、自分の価値観が変わってしまった気がした。
見えない霧で身を包み、直に触れないようにはしている。食器も寝床も浄化し、霧に毒味もさせた。
それでも、見下していた低魔族の者達と話をし、食事をしている。

彼は迷いが生じた。
王に成る者、差別区別をするのは良くない。けれども、今までの自分が変わってしまうような気がして怖かった。

「…帰る。」

「おお、そろそろお帰りにならないと、王子様もご心配なさいますか。兵士様、今宵は長くお引き止めしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。そして娘を助けていただき、本当にありがとうございます…!」

族長が立ち上がり、周りの者達に言った。

「兵士様がお帰りになる。皆、お見送りだ。」
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