魔族の王子の進む道
王子の戴冠式
人間界の、とあるビルの一角にある店で、年配の女性と若い青年が大きな水晶を覗いていた。

「重大発表??」

青年が興味深そうに聞いた。

「ええ、一応お知らせしたほうがよろしいかと。なんでも、魔界の王子様の戴冠式と、王妃様のお披露目が急遽決まったそうなのです。」

「それはすごい急だな!!」

「あ、始まったようですわ。」


闇のように黒いマントに赤き王冠を頂いた、見覚えのある厳《いかめ》しい表情の若き新王。
その隣にいたのは、しきたりに沿った衣装を身に(まと)ってはいるが、『高貴』という言葉とは全く無縁な、小角族の娘。
屈託なく明るく笑い、無邪気という言葉がとてもよく似合う、今まで彼のそばには決して居なかったタイプの娘だった。

「…なんだよ…『低魔族など私には相応しく無い!』とか、『私に相応しい高貴な娘を…』とか言ってたくせにっ…!ロリタイプに目覚めた上に、惚れた弱み、とかいうやつか??」

水晶を覗く青年が、王となった彼にとても良く似せた真似をしながらそう言うと、隣にいた女性は上品に笑った。

「わたくしには、どなたかにも似た雰囲気の王妃様かと思いますけれど?」

「え?誰だ??」

聞き返す青年の様子に女性はもう一度上品に笑い、また水晶を見つめた。

………

『我、ラインデンドは、亡き前国王、王妃に代わり、この国を、この世界を平和に治めていく事をここに誓う。ここに居る我が妃は、とても明るく、平和を愛する優しき者だ。彼女の為にも、違う種族であっても、例え魔族でなくとも、公平に愛する世界を目指したい…』

………

青年は彼の言葉に感心し、溜息をついた。

「だいぶ変わったもんだなあ…!口が縦に裂けたって、こんな事言わなかったのにな!」

そしてもう一度水晶を見つめた。

「…悪いな、頑張ってくれよ…ライ兄上…!」

「…さ、そろそろ休憩も終わりにしましょう。」

女性が青年を優しく促す。青年は明るく屈託の無い笑顔で返した。

「はい先生!」
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