魔族の王子の進む道
後悔の第一王子
魔力の込められた鎧などの防具、剣を携え、兵士姿の彼は森に足を踏み入れた。

魔の胞子はもう、濃い霧のように彼の視界を奪った。

「…なぜあの娘はこのような場所に……自決を考えるほどに賢いわけは無いはずだ…」

彼は、娘が自らの命を捨てたいと考えるほどのことを、自分はしていないはず、そう自分に言い聞かせた。
この森に入るということは、自我を忘れてしまった末に入り込み迷ったか、自らの魔力を全て捨て無に還る、要するに、『自殺』を考えた時くらいなもの。

「…どちらにせよ見つけられねば、私が殺したようなものだ……」


胞子により自分の感覚が乱され、魔力に上手く注ぐことができないほどの中、彼は夢中で森を分け入って行った。
自慢の翼も使えないほど草木は鬱蒼と茂っている。

強い魔力を持った彼は、物事を全て無難にこなして来られたたため、ここまでなりふり構わなくなることは今まで無かった。

「娘!どこにいる!?」

返事など出来るはずもないのは分かっていた。それでも、声を出さずには居られなかった。


どのくらいたったか、魔力を蓄え込んだ黒や濃い緑の草木の間に見え隠れする、小さな赤褐色が目に入った。

「お前…!!」

ぐったりと身体を横たえ、気を失った傷だらけの娘だった。

彼は構わず抱き上げ、立ち上がった。
まだ帰りがある。ここで体力も魔力も消耗するわけにはいかない。一刻の猶予も無かった。

彼は自らの発してきた魔力を辿り、娘を抱えたまま森の外へ向かった。


魔力に守られていたとはいえ、防具は傷だらけになり、彼も疲れ果て、森の外へ出た途端に膝を付いた。

次は娘を集落まで届けなければならない。
魔力は森から出てすぐに徐々に回復しているようでも、娘を抱き抱えたまま飛ぶほどまでは至っていないため、そのまま地面に座り込んだ。

「…こんな…娘の為に…!」

自分の足で歩く体力など、強魔力でカバーしただけであり、すでに有るはずもなかった。
彼は兵士姿で娘を抱き抱えたまま、森の外で眠ってしまった。
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