魔族の王子の進む道

低魔族、小角の集落

ガラガラという音と振動がした。

「ん……」

気付くと、隣には眠っている娘、そして揃って何かの荷台に乗せられていた。

「！！…サイクロプス！！」

一つ目の屈強な巨人が、その荷台を引いていた。
彼は力を振り絞り、急ぎ剣を抜く。

「貴様…我らを喰らおうなどと…！」

「ワカラナイ…」

「…は？」

巨人は穏やかな口調で発した為、彼は思わず剣を少し引いた。

「ゼラ、俺、喰ワナイ。オ前モ、喰ワナイ。」

「…ゼラ…？…この娘のことか…？」

「ゼラ、好キ。良イ奴。森、危ナイ、帰ス。」

穏やかな口調で嬉しそうに目を細める巨人。

「この娘の仲間なのか…？」

「着ク。見ル。」

彼が剣を収め、言われた通りに前を見ると、のどかな農村が広がっていた。

気付き、急いで巨人に向かって声を掛けた。

「私は帰る…！降ろせ！」

足はフラつき、荷台から飛び立つこともできない。

「ギダ…！ゼラ居タ！」

彼の言葉も聞かずに巨人は、前方にいる誰かに向かって声を掛けている。

「ギダ…？…小角族の長ではないか…！」

城の者たちには口止めし、いま自分は兵士姿。内密である上、正体を知られては、普通ならば王家への反乱は避けられない。
怒りの衝動に駆られたとはいえ、一族の娘を贄に出させ、慰み者として傷物にしたのだから。

「サイ、連れて来てくれたのだな…！？ゼラ！！おぉ…ゼラ……良く無事で……！！」

族長が、早く娘の無事を確かめようと走り寄ってくるのが見えた。

「っ…！！」

彼は覚悟を決めた。

「ソレト兵士、一緒、居タ。森ニ！」

「兵士様も？？…森だと…！？迷いの森か！！なぜ…！？」

「ん……」

そうこうしている間に娘が目を覚ました。

「……あれぇ……ギダ様ぁ…？…サイのおいちゃん……あと……あぁ、お城の兵士様だぁ……」

ぼんやりはしているが、誰が居るかの認識は出来ているらしい。娘は身体をゆっくりと起こした。

「ゼラ…！！無事で良かった…！！だが一体、なぜ森に！？サイは、お前と兵士様は森にいたと……お前は城に……」