惡ガキノ蕾 二幕
~H31.4.7 (日) 凜と律っちゃん~
あたしときむ爺を降ろすと車を返す為、一樹は親方の家へと向かった。
──カラ・コロ・カラン
店の引き戸を開ける。すると、あたし達を出迎えたのはカウンタ―の中で忙しく働く双葉の後ろ姿だった。鐘の音に振り向いて恥ずかしそうに笑顔を零《こぼ》す。その後ろで遅くなったあたし達を責める様に古時計がボォ―ン、ボォ―ン…と、六度低い唸り声を揚げた。開店まで後一時間。真面《まとも》にいったら余裕で間に合わない頃合いだ。
「トイレ掃除終わったよ―」
カウンターの向こう側、奥の通路から腕捲りをした優が顔を出す。
帰り際、駐車場から車を出した後になって、急にダボシャツを買って行くと言い出した一樹に付き合って"あだち屋"の暖簾を潜《くぐ》ったのが四時半。生地を選んで採寸して、注文が終わるともう五時十五分。正直、七時の開店は諦めていたんだけど…、姉さん方、サンキュ。
──七時。看板に灯りが入ったのを確かめて店内に戻る。カウンタ―に立つと、晩ご飯を食べてから帰るという優の前にグラスを置いた。
「ん?」
「ありがとう、助かった。よかったら飲んで」
返事の替わりに目元を緩めてグラスに口を付ける。首を傾げた優の紫の瞳を、光の加減がもうひとつ濃い物にしていた。今日のカラコンはネイルとお揃いにしたみたい。
グラスの中身はきむ爺が持って来てくれた梅酒を抹茶で割って、蜂蜜を足した物。本で見付けて、あたし好みにアレンジしてみたんだけど……さて?
「うまっ」
こころもち大きく聞こえた優の声にカウンタ―の下で拳を握る。お世辞言うような相手じゃないのは知ってるだけに嬉しさも一入《ひとしお》だ。
カラ・コロ・カラン──
「いらっしゃ…凜っ…律っちゃん!」
珍しっ、て言うより、二人共店の開いてる時間に来たのなんて初めてのことだ。
凜と顔を合わせるのも三月の大会、決勝の会場で遠目に見た時以来だった。声だけは電話で聞いてたけど、意外だった所為《せい》で迎えたあたしの声もちょっと上擦っちゃった。「こんばんは」と、優が立ち上がると、その流れであたしも交えて、四人が口々に型通りの挨拶の言葉を交わし合う。勝手の違うシチュエ―ションでもたらされた意図していなかった出会いに、歯車の噛み合わない四人。きむ爺はそんなあたし達の様子を、何時もと変わらず煙管《キセル》を手に、ニコニコと眺めている。優の隣に座った凜も、カウンタ―の中で立っているあたしも、なんだかぎこちなくて、律っちゃんが「ビ―ルちょうだい」と口を開くまで、飲み物を訊くのも忘れていた。
「あ―ごめんね。凜はどうする?」
「私は…」と言い掛けた凜の言葉を律っちゃんが遮って、「たまには凜も飲んでみれば?」
中学生の頃友達の家にみんなで泊まった時とか、イタズラして飲んでみる事はあっても、一本の缶ビ―ルを最後まで空けないような感じだったから、てっきりお酒は嫌いなんだと思ってたけど…飲めるんだ。これもちょっと意外。
試しにカウンタ―にコップを二つ出してみると、凜はあっさりと受け取って、両方のコップに自分でビ―ルを満たした。「乾杯しよう」と律っちゃんが持ち上げたコップに唇を"かんぱい"の形に動かして凜が自分のコップを触れさせる。
なんだか羨ましいな、母娘《おやこ》でそういうの。隣の優なんか、羨まし過ぎて口開いちゃってるし。両親が共働きで家に帰って来る事さえ殆ど無い優のデ―タフォルダに目の前で再生されている動画は、まあ入って無いんだろうな。ま、あたしも持っていませんけどね。
「今日はどうしたの?」
三人の前にきむ爺お手製の突き出しを並べて凜に振る。
「春休み中の練習日も今日で終わってね、だから…なのか分からないんけど、家に帰ったらお母さんがいきなり『ちょっと出掛けよう』とか言ってきて…」
「ふぅん」
あたしが答えても、律っちゃんはきむ爺と話すのに夢中で、此方《こっち》の会話に加わる素振りを見せない。
裏口でドアの開く音がして、「…あれっ?珍しいじゃん凜!律っちゃんもいらっしゃい!」と、二階から降りて来た双葉がカウンタ―を見て声を弾ませた。
「今晩は」と、椅子から立ち上がって凜が挨拶する。その後も、立ったまま優の隣に双葉が腰を下ろす迄、双葉から視線を外そうとしない。愛、変わらずっすね。そういうとこ。
「はなみ、一樹先輩は?」
堪らず声を揚げた優が、お代わりと顔に書いて空のグラスをカウンタ―に置く。
「親方のとこからはもう戻って来たみたいだから、溜まったプロレスの録画でも見てんじゃない?」
「あ―ね」と答えた優が唇を尖らす。
カラ・コロ・カラン──
「いらっしゃいませ―」近頃顔を見せる回数が増えたお年寄りの二人連れ。植松さん御夫妻。この間、何処《どこ》に住んでんのか聞いてみたら、20メ―トルも離れてなくて、お客さんの中では一番のご近所である事が発覚したばかり。
バタバタと外階段を降りて来る音に続いて、裏口から一樹が顔を出す。どうやら晩ご飯は店で食べる事にしたみたいだ。
「一樹先輩!」
双葉の席をずらして、いそゝと自分の隣を空ける優。よかった、よかった。植松さん達も何時もの座敷の席に落ち着いて、カウンタ―に女が四人並んだ、初めての夜が過ぎて行く。
二時間許《ばかり》がまったりゆったりと流れて行き、「先に帰るね」と席を立った律っちゃんに続いて、あたしも店の外に立った。
「ちょっと飲み過ぎちゃったかな―」
「珍しいんでしょ?大丈夫?」言ってはみたけど律っちゃんの様子に特に変わった処は見受けられない。
「うん…」らしくない歯切れの悪い返事に、何か言おうとして迷っているような、そんな漠然とした感じだけが伝わって来る。前触れも無く強く吹いた風に律っちゃんの髪が踊って、駐車場の隅に散り積もっていた櫻の花びらが、息を吹き返したみたいに宙に舞って見せた。間を埋める為に話し出したくなる気持ちを押さえて、黙ったまま次の言葉を待っているあたしに、その風に運ばせるような軽い声音《こわね》で律っちゃんが話し始めた。
「ここのところの凜、何か上手く行ってないみたいなんだよね…。あの子から直接なんか聞いたって訳じゃ無いんだけど…。大会の後の打ち上げとか、たまに練習見に行った時とかさあ、分かっちゃうんだよね…。黙っててもさ。この間の大会も優勝出来なかったじゃない。それも少しは有ると思うんだけどなあ」
この間…。三月三十一日の大会。準決勝に勝って、決勝へと登った凜の相手は一学年年上の二年生。神奈川観音寺高校の主将で、あたしが買った剣道の専門誌にも凜より大きく取り上げられていた、全国レベルの優勝候補筆頭。とは言ってみた処で、会場に居たあたしと律っちゃんを含め同じ学校の誰ひとりとして、凜が敗れる場面は想像もしていなかったんだと思う。
試合開始後、お互い一本ずつを奪い合って迎えた三本目。相手側、赤の旗が三本上がった時、歓声に沸く対戦相手の応援席とは対照的に、凜の応援席からは落胆する声すらも聞こえず、意にそぐわない結末を拒んで、皆が一様に押し黙っていた。試合場を後にする凜に、労《ねぎら》いの言葉を掛ける生徒さえ一人も居ない。一般席の二階から、「良くやった!」と叫ぶ律っちゃんの一際目立った大きな声も、控え室に向かう凜に寄り添う事は出来ていないみたいだった。
「学校に取材が来たり、三年生が引退してからは三人選ばれる副部長の一人に指名されたりして、みんなのやっかみもあったと思うんだ。二年生の中には、凜の替わりに団体戦のメンバ―から外れた子も居るしね。顧問の先生の話だと、そういう所でちょっとずつ溜まった色んな物がこの前の試合に負けた事で、形を変えて出て来たんじゃないかって言うんだけど…。陰で色々言うだけじゃなくて、今はネットもあるしね。…凜もあの性分だから、お世辞とか先輩達の機嫌取ったりとか、全然出来ないみたいでさあ…」そこで言葉を切ると、その先を長い吐息に変え、「ふぅ―」と、夜の闇に溶かし込んで見えなくしてしまう。
けど、あたしには律っちゃんの言いたい事は、もう分かり過ぎる位に分かった。その奥に在るあたしに伝えたかった気持ちも。そういう事なら凜は、副部長になれなかった人にも選抜から洩れた人にも同情を見せるような真似なんて一切しないだろう。態度でも言葉でもそういう事が、"相手に対して一番礼を欠く事だ"とか考えちゃうような奴だから…、あいつは。
「もうちょっと器用に出来ないもんかね―」言って、円を欠いたお月様を見上げると短くひとつ笑う。その顔は寧《むし》ろそんな娘を誇っている様にも見えて、あたしは、又急に二人が嫉妬する程羨ましくなった。
「律っちゃんの娘だからね」
何方《どちら》からともなく目が合って、二人して笑った。後は宜しくお願いしますと言い置いて帰る不器用な後ろ姿に、胸の中で頭を下げて店に戻る。
母娘《おやこ》か―。……。パパのば―か。
あたしときむ爺を降ろすと車を返す為、一樹は親方の家へと向かった。
──カラ・コロ・カラン
店の引き戸を開ける。すると、あたし達を出迎えたのはカウンタ―の中で忙しく働く双葉の後ろ姿だった。鐘の音に振り向いて恥ずかしそうに笑顔を零《こぼ》す。その後ろで遅くなったあたし達を責める様に古時計がボォ―ン、ボォ―ン…と、六度低い唸り声を揚げた。開店まで後一時間。真面《まとも》にいったら余裕で間に合わない頃合いだ。
「トイレ掃除終わったよ―」
カウンターの向こう側、奥の通路から腕捲りをした優が顔を出す。
帰り際、駐車場から車を出した後になって、急にダボシャツを買って行くと言い出した一樹に付き合って"あだち屋"の暖簾を潜《くぐ》ったのが四時半。生地を選んで採寸して、注文が終わるともう五時十五分。正直、七時の開店は諦めていたんだけど…、姉さん方、サンキュ。
──七時。看板に灯りが入ったのを確かめて店内に戻る。カウンタ―に立つと、晩ご飯を食べてから帰るという優の前にグラスを置いた。
「ん?」
「ありがとう、助かった。よかったら飲んで」
返事の替わりに目元を緩めてグラスに口を付ける。首を傾げた優の紫の瞳を、光の加減がもうひとつ濃い物にしていた。今日のカラコンはネイルとお揃いにしたみたい。
グラスの中身はきむ爺が持って来てくれた梅酒を抹茶で割って、蜂蜜を足した物。本で見付けて、あたし好みにアレンジしてみたんだけど……さて?
「うまっ」
こころもち大きく聞こえた優の声にカウンタ―の下で拳を握る。お世辞言うような相手じゃないのは知ってるだけに嬉しさも一入《ひとしお》だ。
カラ・コロ・カラン──
「いらっしゃ…凜っ…律っちゃん!」
珍しっ、て言うより、二人共店の開いてる時間に来たのなんて初めてのことだ。
凜と顔を合わせるのも三月の大会、決勝の会場で遠目に見た時以来だった。声だけは電話で聞いてたけど、意外だった所為《せい》で迎えたあたしの声もちょっと上擦っちゃった。「こんばんは」と、優が立ち上がると、その流れであたしも交えて、四人が口々に型通りの挨拶の言葉を交わし合う。勝手の違うシチュエ―ションでもたらされた意図していなかった出会いに、歯車の噛み合わない四人。きむ爺はそんなあたし達の様子を、何時もと変わらず煙管《キセル》を手に、ニコニコと眺めている。優の隣に座った凜も、カウンタ―の中で立っているあたしも、なんだかぎこちなくて、律っちゃんが「ビ―ルちょうだい」と口を開くまで、飲み物を訊くのも忘れていた。
「あ―ごめんね。凜はどうする?」
「私は…」と言い掛けた凜の言葉を律っちゃんが遮って、「たまには凜も飲んでみれば?」
中学生の頃友達の家にみんなで泊まった時とか、イタズラして飲んでみる事はあっても、一本の缶ビ―ルを最後まで空けないような感じだったから、てっきりお酒は嫌いなんだと思ってたけど…飲めるんだ。これもちょっと意外。
試しにカウンタ―にコップを二つ出してみると、凜はあっさりと受け取って、両方のコップに自分でビ―ルを満たした。「乾杯しよう」と律っちゃんが持ち上げたコップに唇を"かんぱい"の形に動かして凜が自分のコップを触れさせる。
なんだか羨ましいな、母娘《おやこ》でそういうの。隣の優なんか、羨まし過ぎて口開いちゃってるし。両親が共働きで家に帰って来る事さえ殆ど無い優のデ―タフォルダに目の前で再生されている動画は、まあ入って無いんだろうな。ま、あたしも持っていませんけどね。
「今日はどうしたの?」
三人の前にきむ爺お手製の突き出しを並べて凜に振る。
「春休み中の練習日も今日で終わってね、だから…なのか分からないんけど、家に帰ったらお母さんがいきなり『ちょっと出掛けよう』とか言ってきて…」
「ふぅん」
あたしが答えても、律っちゃんはきむ爺と話すのに夢中で、此方《こっち》の会話に加わる素振りを見せない。
裏口でドアの開く音がして、「…あれっ?珍しいじゃん凜!律っちゃんもいらっしゃい!」と、二階から降りて来た双葉がカウンタ―を見て声を弾ませた。
「今晩は」と、椅子から立ち上がって凜が挨拶する。その後も、立ったまま優の隣に双葉が腰を下ろす迄、双葉から視線を外そうとしない。愛、変わらずっすね。そういうとこ。
「はなみ、一樹先輩は?」
堪らず声を揚げた優が、お代わりと顔に書いて空のグラスをカウンタ―に置く。
「親方のとこからはもう戻って来たみたいだから、溜まったプロレスの録画でも見てんじゃない?」
「あ―ね」と答えた優が唇を尖らす。
カラ・コロ・カラン──
「いらっしゃいませ―」近頃顔を見せる回数が増えたお年寄りの二人連れ。植松さん御夫妻。この間、何処《どこ》に住んでんのか聞いてみたら、20メ―トルも離れてなくて、お客さんの中では一番のご近所である事が発覚したばかり。
バタバタと外階段を降りて来る音に続いて、裏口から一樹が顔を出す。どうやら晩ご飯は店で食べる事にしたみたいだ。
「一樹先輩!」
双葉の席をずらして、いそゝと自分の隣を空ける優。よかった、よかった。植松さん達も何時もの座敷の席に落ち着いて、カウンタ―に女が四人並んだ、初めての夜が過ぎて行く。
二時間許《ばかり》がまったりゆったりと流れて行き、「先に帰るね」と席を立った律っちゃんに続いて、あたしも店の外に立った。
「ちょっと飲み過ぎちゃったかな―」
「珍しいんでしょ?大丈夫?」言ってはみたけど律っちゃんの様子に特に変わった処は見受けられない。
「うん…」らしくない歯切れの悪い返事に、何か言おうとして迷っているような、そんな漠然とした感じだけが伝わって来る。前触れも無く強く吹いた風に律っちゃんの髪が踊って、駐車場の隅に散り積もっていた櫻の花びらが、息を吹き返したみたいに宙に舞って見せた。間を埋める為に話し出したくなる気持ちを押さえて、黙ったまま次の言葉を待っているあたしに、その風に運ばせるような軽い声音《こわね》で律っちゃんが話し始めた。
「ここのところの凜、何か上手く行ってないみたいなんだよね…。あの子から直接なんか聞いたって訳じゃ無いんだけど…。大会の後の打ち上げとか、たまに練習見に行った時とかさあ、分かっちゃうんだよね…。黙っててもさ。この間の大会も優勝出来なかったじゃない。それも少しは有ると思うんだけどなあ」
この間…。三月三十一日の大会。準決勝に勝って、決勝へと登った凜の相手は一学年年上の二年生。神奈川観音寺高校の主将で、あたしが買った剣道の専門誌にも凜より大きく取り上げられていた、全国レベルの優勝候補筆頭。とは言ってみた処で、会場に居たあたしと律っちゃんを含め同じ学校の誰ひとりとして、凜が敗れる場面は想像もしていなかったんだと思う。
試合開始後、お互い一本ずつを奪い合って迎えた三本目。相手側、赤の旗が三本上がった時、歓声に沸く対戦相手の応援席とは対照的に、凜の応援席からは落胆する声すらも聞こえず、意にそぐわない結末を拒んで、皆が一様に押し黙っていた。試合場を後にする凜に、労《ねぎら》いの言葉を掛ける生徒さえ一人も居ない。一般席の二階から、「良くやった!」と叫ぶ律っちゃんの一際目立った大きな声も、控え室に向かう凜に寄り添う事は出来ていないみたいだった。
「学校に取材が来たり、三年生が引退してからは三人選ばれる副部長の一人に指名されたりして、みんなのやっかみもあったと思うんだ。二年生の中には、凜の替わりに団体戦のメンバ―から外れた子も居るしね。顧問の先生の話だと、そういう所でちょっとずつ溜まった色んな物がこの前の試合に負けた事で、形を変えて出て来たんじゃないかって言うんだけど…。陰で色々言うだけじゃなくて、今はネットもあるしね。…凜もあの性分だから、お世辞とか先輩達の機嫌取ったりとか、全然出来ないみたいでさあ…」そこで言葉を切ると、その先を長い吐息に変え、「ふぅ―」と、夜の闇に溶かし込んで見えなくしてしまう。
けど、あたしには律っちゃんの言いたい事は、もう分かり過ぎる位に分かった。その奥に在るあたしに伝えたかった気持ちも。そういう事なら凜は、副部長になれなかった人にも選抜から洩れた人にも同情を見せるような真似なんて一切しないだろう。態度でも言葉でもそういう事が、"相手に対して一番礼を欠く事だ"とか考えちゃうような奴だから…、あいつは。
「もうちょっと器用に出来ないもんかね―」言って、円を欠いたお月様を見上げると短くひとつ笑う。その顔は寧《むし》ろそんな娘を誇っている様にも見えて、あたしは、又急に二人が嫉妬する程羨ましくなった。
「律っちゃんの娘だからね」
何方《どちら》からともなく目が合って、二人して笑った。後は宜しくお願いしますと言い置いて帰る不器用な後ろ姿に、胸の中で頭を下げて店に戻る。
母娘《おやこ》か―。……。パパのば―か。