二人
一人で大丈夫
 重いなぁ……

 朝練終了後に優ちゃんから呼ばれた私は今日が日直であった事を思い出した。優ちゃんの机の上に置いてある二つのダンボール箱。それを日直として教室まで持って行くように。それが優ちゃんが私を呼んだ理由であった。

「お前はもう少しパワーを付けなんから、これば運べばちょうどトレーニング替わりにもなるばい」

 えっちらおっちらとダンボールを抱えて教室へと向かっていると、少し先に奏音と河原くんが仲良く並んでお喋りをしながら歩いている姿が目に入ってきた。

 やっぱり、二人は付き合い始めたんだ……

 歩くスピードを落とし、奏音が私に気付かない様にした。そうしないと奏音は絶対に私の手助けをしようとするはず。二人の邪魔をしてはいけない。

 しかし、あんまりゆっくり歩き過ぎても、ダンボールを抱える腕が持つか分からなかった。

 そんな時、後ろから愛美が声を掛けてきた。

 愛美は私が持っているダンボールを見ると、一つ持つよと言って、私の返事を待たずにサッとダンボールを持ってくれた。

「助かったぁ……ありがとう、愛美。教室まで腕が持たんかと思っとったけん」

「確かにこれ二つ持つんは、うちら乙女には厳しかよ」

 そう言って愛美がぎゃははっと口を大きく開けて笑う。乙女と言うには程遠い笑いかたをする愛美につられて、私も笑ってしまっていた。

 そして、二人で教室へとダンボールを運ぶと教卓の上へと置いた。教室にいたクラスメイト達が、別のクラスの愛美と一緒にダンボールを運んで来た私に注目している。

「ありがとう、助かったよ」

「気にせんで良かよ、ならね京香」

「うん、またね」

 互いに手を振ると愛美は自分の教室へと戻っていく。その後ろ姿を見送った私は自分の席へ行くと、鞄から一限目の教科書などを取り出していく。そんな私を奏音がじっと見ている事に全く気が付かなった。

 そして放課後、私は日直最後の仕事である教室のゴミ箱の中身を袋に移し焼却炉へと運んでいた。今日は美術があり、いつもよりもゴミの量が多く、両手にゴミ袋を持っている。

「手伝うよ」

 ゴミ袋を運ぶ私の後ろから奏音が声を掛けてきた。とっくに部活へと行っているかと思っていた。早く渡してと言うように手を差し出す奏音。だけど私は首を振った。

「一人で大丈夫やけん」

 ゴミ袋は見た目ほど重たくなく、本当に一人で持てる重さであり、また、これ位の事で奏音のお世話になると認めて貰えないという気持ちもあったのだ。

 しかし、奏音の顔は何故か悲しそうにしていた。

「そっか……わかった」

 奏音は小さな声でそう言うとくるりと背を向け、すたすたと私の前から去っていく。

 呼び止めたかった。

 奏音を呼び止めて、手伝って欲しかった。

 でも、それじゃあ駄目なんだ。

 私は奏音の悲しそうな顔が頭から離れなかったが、それを消し去るかの様に二三度頭を左右に振った。
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