二人
本当の気持ち
 ここ二ヶ月近くの間、色々あって別々に帰っている。以前は毎日、京香と歩いていた帰り道。一人で帰る事にうちは寂しさを感じている。

 バケツをひっくり返した様な雨が降っている。忙しく走る自動車が、通行人など気にせずに泥水を跳ねあげ走り去っていく。

 あの子は無事に一人で帰れたかな?転んでないかな、靴だけじゃなくて、制服や鞄まで濡らしてないかな?

 うちがいないと京香は……

 ふわふわっとしててどこか頼りなく、少し抜けててドジで、でも、練習中や試合の時は誰よりも声を出して頑張っている。

「待ってよ、奏音」

「良いやん、腕組むくらい」

「はい……あーん」

「私ら、ずっと友達やろ?」

「私は大丈夫やけん」

「一人で大丈夫やけん」

 はっきりと心の中に京香の顔が浮かんだ。

 けらけらと笑う京香。

 ぷぅっと頬を膨らます京香。

 頭を撫でると喜ぶ京香。

 子供扱いすると怒る京香。

 夏祭りの浴衣姿……可愛かったな。

 たくさんの時間を共に過した京香との思い出が甦る。

 京香はうちがいないと駄目……なんかじゃなくて、うちが京香といなきゃ駄目なんだ。

 なんだかんだ理由を付けて、京香の傍にいたかったたけなんだ。本当はうちが京香と離れるのが嫌だったんだ。

 自分の本当の気持ちに気づくと、自然に走り出していた。京香はいつ帰ったのだろうか。まだ、追いつけるかもしれない。でも、もしかしたら、もう家に着いているかも……それでも走った。土砂降りの雨の中、全身が濡れていく事など気にせずに。

 先の方から聞き慣れた声がする。

 この激しい雨の中、傘もささずに立ち尽くしている京香が見えた。髪も制服も全てがまるで川にでも落ちたかの様に濡れている。それどころか、制服は車に泥水をかけられたのか泥まみれだった。

 「京香っ!!」

 傘を放り投げて全力で走った。早く京香に駆け寄ってやりたかった。

 ゆっくりと振り返る京香の顔は、雨水と泥水と涙でぐしょぐしょになっている。何があったのかは分からないが、普通ではない京香のその姿に胸の奥がちくりと痛んだ。

「……大丈夫……やけん……来んで……」

 うちの姿を確認した京香がよろよろとした足取りで後ずさって行く。
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