二人
夏の終わり
「うぅーんっ」
盆休み最終日。町立図書館の一角に京香と奏音の姿があった。この二人以外、誰も来館者のいない静かな空間で、唸り声を上げながら夏休みの宿題と向き合っている京香の眉間に可愛らしい顔に似合わない深い深い皺が刻み込まれている。
「やけんで、きちんとしとかなんよって言ったとたい」
向かいの席に座る奏音が、頬杖をついて呆れた顔をしながら京香へと言った。京香はぽりぽりと頭を掻きながら恨めしそうな目で奏音を睨んでいる。
「なんでうちが睨まれにゃいかんの?折角のお盆休みの最終日に、あんたに付き合っとんのにさ」
「だってぇ……」
「だってぇ……じゃなかよ。全く、あんたは毎年毎年……うちらん恒例行事になっちょるやん」
「もぉっ、そげん事言わんで、国数社理英の宿題見せてよぉ……」
「はぁ……国数社理英っち……それ、全部やん」
あからさまにため息をつく奏音。そして、京香の前に積まれている宿題の中から一冊の課題を取るとぱらぱらと捲り始めた。
「あんた……これ、優ちゃんの出した課題やん。せめてこれだけはせんと、部活も出られん様になるよ?」
手に取った課題を京香へと返すと、もう一度、大きなため息をついた。そして、京香の前に広げてあった課題を退かして、原田からの課題を代わりに置いた。
「とりあえず、これから片付けんね」
そう言われた京香が頬を膨らませながらも集中して課題に取り組み始めた。京香が課題をしている間、手持ち無沙汰になった奏音は本を手に取り読み始めた。
静まり返った図書館に、かりかりと課題を進める鉛筆の音だけが聞こえる。奏音はぱらりとページを捲る度に京香へと視線を移す。いつになく真剣な表情で課題に取り組んでいる京香。
そんな京香の姿を見て微笑む奏音は、また本へと視線を戻した。
ゆったりとした時間が流れている。
外の猛暑が嘘の様に、館内はエアコンが付けてあるお陰でとても涼しく快適で、いつの間にか奏音はうとうとと居眠りをしてしまっていた。
気が付くと自分の肩に京香が持ってきていたカーディガンが掛けてあった。
カーディガンからふわりと京香の香りがしてくる。
甘い香りであった。
それを目の前にいる京香に気付かれない様に、もう一度、その香りを嗅いだ。
「ありがとね」
奏音がカーディガンのお礼を言うと、課題から目を上げ、京香は何も言わずににこりと笑った。
図書館の閉館時間が迫ってくる。
京香はその前になんとかいくつかの課題を終えていた。残りもあと少し、これなら問題ないだろう。奏音のお墨付きをもらった京香がぐうっと背伸びをした。
「儂は疲れたぞぉ~」
何故かお爺さんの様な喋り方をしている京香の頭を、奏音がなんねそれ?と笑いながらこつんと小突く。小突かれた頭を擦りながら笑う京香と並んで図書館を後にした。
そして、二人はどちらかからという訳でもなく、自然と手を繋いで歩いている。
しばらく手を繋ぎ歩いていると、突然、京香がぱたりと足を止め、じっと奏音を見つめてきた。
「私ら、ずっと友達やろ?」
少し寂し気な表情をしている京香に奏音は驚いたが、すぐににこりと微笑み繋いでいる手に軽く力を入れた。
「当たり前やん。だってさ京香、あんたといるとうち、ばり楽しかっちゃけん」
奏音が、いつもの様にわしわしっと頭を乱暴に撫でる。撫でられた京香がふにゃりと笑う。
午後五時の空はまだまだ明るく、カナカナカナとヒグラシの鳴き声が止む事無く四方から聞こえてくる。夏ももうすぐ終わる。二人は最後の盆休みを惜しむかの様にいつもよりゆっくりと歩きながら家路についた。
盆休み最終日。町立図書館の一角に京香と奏音の姿があった。この二人以外、誰も来館者のいない静かな空間で、唸り声を上げながら夏休みの宿題と向き合っている京香の眉間に可愛らしい顔に似合わない深い深い皺が刻み込まれている。
「やけんで、きちんとしとかなんよって言ったとたい」
向かいの席に座る奏音が、頬杖をついて呆れた顔をしながら京香へと言った。京香はぽりぽりと頭を掻きながら恨めしそうな目で奏音を睨んでいる。
「なんでうちが睨まれにゃいかんの?折角のお盆休みの最終日に、あんたに付き合っとんのにさ」
「だってぇ……」
「だってぇ……じゃなかよ。全く、あんたは毎年毎年……うちらん恒例行事になっちょるやん」
「もぉっ、そげん事言わんで、国数社理英の宿題見せてよぉ……」
「はぁ……国数社理英っち……それ、全部やん」
あからさまにため息をつく奏音。そして、京香の前に積まれている宿題の中から一冊の課題を取るとぱらぱらと捲り始めた。
「あんた……これ、優ちゃんの出した課題やん。せめてこれだけはせんと、部活も出られん様になるよ?」
手に取った課題を京香へと返すと、もう一度、大きなため息をついた。そして、京香の前に広げてあった課題を退かして、原田からの課題を代わりに置いた。
「とりあえず、これから片付けんね」
そう言われた京香が頬を膨らませながらも集中して課題に取り組み始めた。京香が課題をしている間、手持ち無沙汰になった奏音は本を手に取り読み始めた。
静まり返った図書館に、かりかりと課題を進める鉛筆の音だけが聞こえる。奏音はぱらりとページを捲る度に京香へと視線を移す。いつになく真剣な表情で課題に取り組んでいる京香。
そんな京香の姿を見て微笑む奏音は、また本へと視線を戻した。
ゆったりとした時間が流れている。
外の猛暑が嘘の様に、館内はエアコンが付けてあるお陰でとても涼しく快適で、いつの間にか奏音はうとうとと居眠りをしてしまっていた。
気が付くと自分の肩に京香が持ってきていたカーディガンが掛けてあった。
カーディガンからふわりと京香の香りがしてくる。
甘い香りであった。
それを目の前にいる京香に気付かれない様に、もう一度、その香りを嗅いだ。
「ありがとね」
奏音がカーディガンのお礼を言うと、課題から目を上げ、京香は何も言わずににこりと笑った。
図書館の閉館時間が迫ってくる。
京香はその前になんとかいくつかの課題を終えていた。残りもあと少し、これなら問題ないだろう。奏音のお墨付きをもらった京香がぐうっと背伸びをした。
「儂は疲れたぞぉ~」
何故かお爺さんの様な喋り方をしている京香の頭を、奏音がなんねそれ?と笑いながらこつんと小突く。小突かれた頭を擦りながら笑う京香と並んで図書館を後にした。
そして、二人はどちらかからという訳でもなく、自然と手を繋いで歩いている。
しばらく手を繋ぎ歩いていると、突然、京香がぱたりと足を止め、じっと奏音を見つめてきた。
「私ら、ずっと友達やろ?」
少し寂し気な表情をしている京香に奏音は驚いたが、すぐににこりと微笑み繋いでいる手に軽く力を入れた。
「当たり前やん。だってさ京香、あんたといるとうち、ばり楽しかっちゃけん」
奏音が、いつもの様にわしわしっと頭を乱暴に撫でる。撫でられた京香がふにゃりと笑う。
午後五時の空はまだまだ明るく、カナカナカナとヒグラシの鳴き声が止む事無く四方から聞こえてくる。夏ももうすぐ終わる。二人は最後の盆休みを惜しむかの様にいつもよりゆっくりと歩きながら家路についた。