夏空

第九話

 それから二年の月日が流れた。

 僕らはメッセージや手紙でのやり取りを続けていたが、最近はその回数もだいぶ減っていた。

 そんなある日、学校から帰宅すると郵便受けの中に美涼からの手紙が入っていた。僕は家に入らず玄関でその手紙を開封して読み始めた。

『ひさしぶり、元気ですか。私は相変わらず部活を頑張っています』

 何度も読んだ事のある美涼の字。

『圭太君、そちらはもう梅雨明けしたかな?こちらは梅雨明けして、とても暑い夏が来ました。君と離れて二回目の夏が来たね。

 私はあの夏に、夏祭りで初めて手を繋いで、電車に乗って行った海の熱かった砂浜、とても眩しく光る渚、寄せては返す波の音、二人でした花火、砂浜で並んで座ってみた打ち上げ花火……瞼を閉じれば、今でもはっきりと思い出せます。もう、あれから二年も経つのに私の中の思い出は全く色褪せません。

 ねぇ、また会えるかな、会いたいな。

 私は君の笑顔が大好きです。君の横顔が、照れた顔が、私の名前を呼んでくれる声が大好きです。

 今でも私は圭太君、君が大好きです。

 こんな事を書くと重いとか思うかも知れません。

 でも、私はこの気持ちが忘れられない。

 ごめんね、圭太君。困らせるだけだよね。

 それじゃ、元気でね。    
 
 加賀 美涼』

 僕は美涼からの手紙を読み終えると、あの夏に美涼から旅に誘われた日の事を思い出した。

「ねえ赤城君、夏休みに私と一緒に旅に出ない?」

 本当に突然の誘いだった。あの時、美涼は自分が転校してしまう事を知っていたんだ。だから、僕を旅へと誘った。

 手紙に書いてある事を一つ一つ思い出す。
 
 美涼だけじゃない。あのひと夏の思い出が、こんなにも僕の胸の中にもたくさん残っている。

 思い出と共に甦る美涼の色んな表情。

 会いたいな……

 美涼に会って、たくさん話しをしたい。

 そうだ……君にもう一度会うために、旅に出よう。

 僕は梅雨が明けたばかりの夏空を見上げた。

 あの日みた空の様に雲ひとつない夏空。僕は、照りつける太陽が眩しくて目を細めた。
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