中島くんは私を離さない
好きになる前に
夏休みに入った。
と言っても教師にとってはなにも変わらない。
授業の代わりに補習があるし部活動も3年生が引退して新体制での練習で精一杯。
「今日はここまでにしようか」
時計を見ればもう19:00。
みんな暑いのに熱心に頑張っているけど、ずっと動いてる部員より指導してる私の方が疲れているみたい。
「今日はここまでねまた明日」
「「お疲れ様でした」」
みんなそそくさと帰路に着く。
「瑠璃ちゃんー、英語分からないから明日教えて」
「いいけど、芽以ちゃんは課題提出してねー、夏休みの課題成績に含まれるからね?」
「わかってる、明日からやります〜」
「それやらない感じするなぁ〜」
「やるから!先生は生徒を信じてよね〜」
「分かった、期待してる」
「じゃーね、瑠璃ちゃん!」
「なー瑠璃っぺ」
「なに、斎藤くん」
「相談あるんだけど、俺のペアの1年の貝崎、前衛が苦手みたいなんだけど、俺も後衛がいいからペア変えたいと思ってるんだけど」
「そうなの?貝崎くん、技術が高いし前衛がいいって本人が言ってたから斎藤くんと組ませたんだけどねー」
「そうなんだ、でも俺と合わない気がするんだよなー」
「まだ組んで時間が浅いし貝崎くんも一生懸命前衛の練習してるからもう少し待ってて欲しい、まだ大会までは時間があるから十分間に合うよ」
「おっけ、ありがとう瑠璃っぺ」
「はーい、気をつけて帰ってね」
「あ、瑠璃っぺ」
「瑠璃っぺって好きな人いる?」
「え、いきなりどうしたの?」
「なんか気になった」
「いない、そんなこと気にしないで勉強と部活頑張りな!」
「流すあたり怪しい〜」
「いても言わないし本当にいないから」
「そっ、じゃぁまた瑠璃っぺ」
「じゃーね」
生徒とたわいもない話や相談をしている時が自分が必要とされているんだ、
この子はこんなこと考えてるんだってこういう風に考えることができる素敵な子なんだって人の一面を見ることができて、
あぁ、教師が好きなんだなあと実感する。