中島くんは私を離さない
「水野先生」
「ん、なに中島くん」
中島くんの声を聞くと肩がピクッと上がりそうになるくらいびっくりする。
「なんであの日から俺を遠ざけるんですか」
あの日って、中島くんが家に来た日。
中島くんを見る度に看病されたこと、キスされたことが頭にフラッシュバックする。
中島くんには感謝してるし、優しい。
でも中島くんはだめだと思って、中島くんが近づくなら私から遠ざけるしかないと思ってできるだけ中島くんと目が合わないように、毎朝のキスも出来ないように、東階段から降りるようにしている。
「遠ざけてない」
「遠ざけてる」
「普通に話してるつもりだよ」
「でも冷たくなってる」
「そんなことない、でもね中島くん、私に対しての気持ちは諦め……」
「なにするの、離して!」
中島くんから手を引っ張られて体育館の中にあるテニス部部室に来た。
さすがに夏の夜でも真っ暗で体育館には誰もいない。
「中島くん!!」
やっと手を離してくれた。
強く握られて少し痛い。
「先生、好きな人がいるんですか」
「え?」
「いるんですか、好きな人」
「……いるよ」
本当はいない。
竜星と別れて3年間は男とは関わらずに生きてきたから恋する気持ちなんて忘れたほど。
でも中島くんに諦めて欲しい。
「和希と話してる時はいないって言ってたのに」
「生徒に本当のこと言う訳ないじゃん…」
「じゃ本当にいるってこと?」
「そうだよ…」
「誰ですか」
「教えない、だから諦め…」
「絶対諦めないですから」
「中島くん……」
「いつか、聖弥って呼ばせるから、先生のことも瑠璃っぺじゃなくて瑠璃って呼びますから」
「………だから覚悟しててください」