双子の兄の身代わりになった妹の人生【短編】
17歳。
 二つ下の婚約者へと、別れを告げる。
「すまない、婚約を破棄させてくれ」
「レイス様……わ、分かりましたわ……」
 ぐっと下唇を噛んで、目の前にいる兄の婚約者が涙を落した。
 15歳の伯爵令嬢、アリーシャ。私の妹になるはずだった可愛い娘。
 双子の兄が亡くなったのは3年前。
 だけれど、行われたのは「私」の葬儀だ。
 公爵家唯一の跡継ぎである兄を失ったということは伏せられた。そして、双子の妹である私が、その時から兄の代わりになった。
 アリーシャがパーティー会場を飛び出していく背中を見送り、隣にいる女性の肩を抱き寄せる。
 表向きは、男爵令嬢エミリー。
 だけれど本当は、我が公爵家に影として使える一族の者だ。2年前に学園へと入学し、その時から婚約破棄にむけての計画が動き出した。
 私が女だと悟られない為に。
 兄が、もうこの世にいないということを知られない為に。
 婚約者の女性がいながらも、別の女性に手を出す女好きを演じる。
 アリーシャは……本当に、兄のことが好きだったのだ。その気持ちを私は痛いほど知っていた。
 姉のように私を慕って、兄に対する思いを打ち明けてくれていたから。
 私の葬儀で、アリーシャは誰よりも涙を流してくれた。
 それなのに……。悲しませることしか出来なくて、ごめん。
 公爵家の秘密を守るために、辛い思いをさせて、ごめん。
「レイシア様」
 耳元で、「エミリー」が私の名をささやく。
 誰にも聞こえないように、兄ではなく私の名を。
 そう、エミリーといるときだけ私は私だということを思い出す。
「騒がせて済まなかった。私は今日でこの学園を去り、来月からは留学する。今までありがとう」
 パーティー会場で、私たちに注目していた人たちに視線を向けて言葉を発する。
「行こう、エミリー」
「ええ、レイス様」
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