双子の兄の身代わりになった妹の人生【短編】
 足を肩幅くらいに開き、蟹股で足を開いたエミリオの姿に思わずぷっと吹き出す。
「ふふふふ、あははは、男子皆のアイドルのエミリーのドレスの中がまさか……ふふふ、ふふ」
「笑いごとじゃありませんよ。ダンスの授業なんて、その状態で踊るんですよ?」
 エミリオが、留学中のレイスのために新調された服に袖を通す。
 そう、留学先のルビー王国では、エミリオがルイスとして。私がエミリーとして生活する。
「何でも完璧にこなすエミリオのダンスが下手くそだったのは、そのせいなのね」
「まぁ、おかげでダンスもろくに踊れない男爵令嬢がレイス様に近づくなんて生意気なのよと女生徒たちにかなり囲まれましたねぇ」
「そこに、偶然私が現れて庇う……と、自然な流れで二人の関係をアピールしていくことができたわね」
 まだ膝を曲げて立っているエミリオを見て吹き出してしまう。
「ふっ。その姿を先に知らなくて良かったわ。もし知っていたら、ダンスの授業があるたびに爆笑していたと思うもの」
「レイシア様を笑わせることができるなら、何度だってしますよ」
 エミリオがニコリとほほ笑んだ。
「あはは、駄目よ、駄目。クールなレイスが続けられなくなってしまうわ」
 エミリオが曲げていた膝をのばして、私の隣に立った。
 学園では、身長が175と160という二人だった。
 今は、私が163、エミリオが180。すっかり見上げる立場が逆転してしまっている。
「エミリオ」
 そっと、エミリオの方に手を添える。
「いくら影だからって、あまり無理しないで。これからは、しっかりちゃんと食べてね」
 男のエミリオがエミリーを続けるために、成長しすぎないようにかなり食事を制限していたのを私は知っている。
「レイシア様も……無理しないでください」
 エミリオの声が上から落ちてくる。
「私は……」
 無理なんてしていないわと……。言葉が続かなかった。
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