双子の兄の身代わりになった妹の人生【短編】
 きっと、エミリオも同じように「私も無理はしていませんよ」と言葉を返すのだろう。
■ 
「それにしても、ちょっとエミリオ、イケメン過ぎない?なんか、私のレイスよりかっこいいとか嫉妬するわ」
 話題を変えようと、盛大にため息をついて、エミリオの胸をこつんとつつく。
 まぁ元々、影の中からエミリー役を抜擢された理由が、レイスが心を奪われるような美しい顔立ちっていうのがあったわけだから、当然顔の作りはいいわけなんだけど。
「レイス様に寄せてますから、レイス様がイケメンなんですよ」
 寄せてるって、確かに元々瞳の色は同じで、髪の色も多少の濃さの違いはあるけれど同じ金髪。サラサラ流れる薄めの金髪は前髪が長めで、後ろの髪は肩の下までのばされ、首の後ろで一つに結んでいるというレイスが普段している髪型と同じ。
 顔も、影にはどこかでサファイラ公爵家の血が入っているようで、どことなく似ていなくもない。
 まぁ、どこかでというのは、あれね。当主が手を出す系のあれよ、どうせ。ろくでもないご先祖様もいたわけよね。
 私は、絶対にエミリオを……影の人たちをないがしろにしたりしないわ。
 国のため、公爵家のために身を捧げてくれている人たちのためにも。
 少しでも素敵な人を見つけて子供を作らないと……優秀な血を。
「ねぇ、エミリオ、化粧をして頂戴」
 エミリオの手を取る。
「貴方の変装の腕で、私を国一番の美女にして」
 ニコリとほほ笑んむと、エミリオが私の頬を指先でそっと撫でる。
「レイシア様は、誰よりも美しいですよ……私はそのままのレイシア様が一番好きです」
 そのままの私……レイシア。今はもう、人前に出るときはレイス姿だ。
 レイシアでいられるわずかな時間、エミリオは私をレイシアとして褒めてくれる。
 私が、私であったことが消えてなくならないように。
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