双子の兄の身代わりになった妹の人生【短編】
 エミリオはずっと私たち双子と共に成長している。いざというときには兄の影武者になれるようにとも教育されていることを思い出した。
 一瞬、本当にお兄様が生き返ったのかと息を飲む。
 私なんかより、よほどお兄様らしい……。
 コンコンコンとノックの音が響き、慌てて体を離す。
「失礼いたしますお坊ちゃま。もうすぐルビー王国の玄関口の港に到着するそうです」
 ドアを開けて入ってきたのは公爵家執事のセバスだ。
 公爵家に長年使える執事一族の長であり、全ての事情を知り、影たちとの連絡役もしている人物である。
「そうか。いまの揺れはそのせいなのだな?ちょうど何があったのか聞こうと思っていたところだ」
 エミリオがセバスに答えると、いつもは感情を顔には出さないよう訓練を受けているというのに、セバスの目がわずかに見開いた。
「はい。レイス様。下船の準備を。港には、先にルビー王国に入国していたロッテンが迎えに来ているはずです」
 きっとセバスもエミリオがあまりにもお兄様に似ていたからびっくりしたんだと思う。だけど、すぐに何事もなかったかのようにふるまうのは流石としか言いようがない。
「ロッテンは、2カ月前に入って準備を整えてくれたんだな」
「はい。優秀な使用人を雇うことができたと報告を聞いています」
 私たちの秘密を知っている者は数少ない。侍女頭であるロッテンもその一人だ。
 公爵家からルビー王国に渡る者は、セバスとロッテン、あとは影一族の長で、警護も担当するヤシの3人だけ。
 私とエミリオが留学中に滞在する屋敷で働く者たちは、現地で雇う。その準備をロッテンとヤシが行ってくれていた。

「うむ、流石ロッテンだ。セバスも、これからしばらく頼むよ」
「はい。もちろんでございます。レイス様」
 二人のやりとりを見ていると、とても偽物の公爵令息とそれを知っている執事のやりとりには見えない。
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