双子の兄の身代わりになった妹の人生【短編】
 よし。私も頑張るぞ。
 エミリーは、底抜けに明るくて無邪気で怖い者知らずの男爵令嬢。
「レイス様ぁ、ルビー王国って、何がおいしいのかしら?私、ルビー王国のお菓子が食べてみたいわ!」
 いつもよりも、二オクターブくらい上げた甲高い声で明るく話してみる。
「……」
 エミリオが、黙ってじっと私を見て、それから、耐えかねたという様子でぷっと吹き出した。
 え?
 あれ?
「恐れながら、レイス様のことを、お兄様だと思って接すればよろしいかと」
 セバスがまるで笑いをこらえているかのように押さえた口調で言った。
 エミリオをお兄様だと思って?
 私……3年前、お兄様が生きていたころは、どのように接していたのかしら。
 ゆっくりと目を閉じて、お兄様と過ごした日々を思い出す。
 14歳。
 公爵家の跡取りとして自覚をもち、落ち着いて歩くお兄様の周りと、飛び跳ねるようにして歩き回ってマナーの先生によく怒られていたんだわ。
「お兄様、ルビー王国にもう着くんですって。どんな国なのかしら。ルビー王国のことで知ってることが全然ないんだもの。街を見てみたいわ。ここには口うるさいお父様もいないし」
 エミリオが笑った。
「ロッテンがいるよ」
「あー、そうだったわ。お兄様、ロッテンを説得してよ」
「お目付け役には、私もいますことをお忘れなく、レイシア様」
 はっとして、セバスの言葉に胸が捕まれる。
 セバスが私のことをレイシアと呼ぶのを聞くのは3年ぶりのことだ。
「そう。エミリーの演技をしようとしなくてもそのままでいいんだよ。レイシア様……」
 エミリオが私の肩に手を乗せる。セバスが小さく頷いた。
「外でお兄様と呼ばないようにだけお気をつけください、レイシア様。いいえ、エミリー様、どうやら港に到着したようです」
 船が何度かあっちへこっちへと揺れた。

< 9 / 13 >

この作品をシェア

pagetop