魔法の恋の行方・魔女の媚薬(シリーズ3 グリセラとリーディアン)
<狩猟の館・図書室・16時>

リードが聞いた。
「グリセラ、文字や数字は誰から教えてもらったの?」
グリセラは書きながら答えた。

「イ―ディス先生です。・・薬草の名前を覚えたり、記録しなくてはいけないので・・」
リードは納得した。
あの人なら・・グリセラの事を使用人と言っていたが・・
特別なのだろうか・・

グリセラは集中して一生懸命書いている。
リードは邪魔しないように、自分の持ってきた本を開いた。
時折、窓から風が吹き込む。

そばにライラックの木があるのか、花の香を運んできた。
穏やかで静謐な時間が流れる。
リードは本から顔を上げて、グリセラを見た。

机の上にうつ伏せになり・・眠っていた・・・
かわいそうに、早朝から働いて疲れているのだろう。
リードは立ち上がった。

グリセラはいつもうつむいているし、眼鏡と黒髪で顔立ちがはっきりしなかったが・・・
眼鏡がずり落ちている。

肌が透き通るように白い、黒髪がそれをいっそう際立たせている。
あごから首にかけてのラインが華奢で美しい。
鼻筋はきれいに通り、小さめの形の良い唇は赤みの勝ったピンク色をしている。
閉じた目のまつげが長く影を落としている。

人目のつかない秘密の場所で、ひっそりと咲く白い薔薇。
それもつぼみが・・ほころびかけている。

リードは上着を脱いで、グリセラの肩にかけた。
夏とはいえ、ここは山に近く夕方から急に寒くなる。
そして、窓を閉めた。
その音でグリセラが飛び起きた。

「申し訳ございません!!」
グリセラが真っ赤になって、リードの上着をつかんで立ち上がっていた。
リードはグリセラの顔を見た。
眼鏡をかけていない・・・

グリセラの瞳はアメジストの色・・!
<魔女は紫色の瞳をしていた・・・>
「君は・・?」

リードの問いかけに、グリセラはあわてて眼鏡をかけた。
「大丈夫だよ・・謝ることではない」
「あの・・あの・・・失礼します!!」
グリセラが逃げた。
まるでおびえたうさぎのように。

机の上にはグリセラが書き写していた<皇帝と魔女の恋物語>が
そのまま残されていた。
<後で、渡してあげないと・・>
リードは紙を束ねた。

<グリセラは何者なのだ?>
あの時の疑問が、浮かび上がる。





< 15 / 35 >

この作品をシェア

pagetop