初恋
放課後、私は久しぶりに、ただし誰にも気付かれないようにずっと遠く
からテニスコートをのぞいた。
ただの練習だというのに相変わらず女の子たちがコートを囲んでいる。
その中には3年生を始めとするレギュラーメンバーの姿が見えたけど、
中島はまだ来ていなかった。私は自分の気持ちを確かめたかった。
とはいっても「友達」だった中島との間に亀裂が生じてしまった今、
こんな風に遠くから中島の姿を探すことしかできない。早く臆病者の
自分から卒業したいのに。
「金子先輩ならまだ来てねーよ」
振り返ると、探していた人がそこに立っていた。ジャージ姿の中島は私が
最後にしゃべったときと同じくらい憮然とした表情を浮かべていた。
「…別に金子先輩を探してるわけじゃないよ」
「まー俺には佐藤が誰を見てようが関係ねーけど」
吐き捨てるようにそういうと、中島は私の横を通り過ぎた。そっか、
確かに私が誰を見てようと中島には関係ないんだ。たとえ私の瞳に
映ってるのが中島なのだとしても。
「…ごめんね」
聞こえるように行った覚えはないのに中島が振り返った。言葉にできない
ような気持ちが次から次へと湧き上がってくる。不思議とそれは中島に
冷たくされたことに対する悲しさとかじゃなくて、自分でもよくわからない
けどとにかく中島に思い切りぶつけたい、そう思った。