初恋
「ごめんね、好きで!」
中島のあっけにとられたような顔を見てやっと自分が何をいってしまった
のかに気付いた。もちろんいってしまった後だからもうなかったことには
できない。突然我に返った私はとにかく恥ずかしくて逃げるしかなかった。
瞬きをしたら水滴が零れ落ちて、そのときまで自分が泣いてることにも
気付かなかった。
「待てって、佐藤!」
待てといわれて待つアホなんてどこにもいません。ていうかどうして追い
かけてくるの。私は前に進むしかなくて頑張って走ったけど、体育会系の
男の子を振り切ることなんてできるわけもなく、校舎の裏まで来たところで
私は中島に追いつかれ、腕をつかまれた。息を乱しながら中島は訳わかん
ねーよ、といった。
「シカトされたと思ったら今度は好きとかいうし、何なんだよお前は」
「ごめん、ホント自分でも何いってんのかわかんないから、忘れて」
だから手を離して、といったのに中島は私の手首を握ったままなかなか
離さない。中島が触れている部分だけが熱くなって激しく脈打っている
ことを知られる前に私から離れてほしいのに。
「マジわかんねー」
そういうと、中島は私の手首をつかんでいる手を軽く引っ張った。すると
私の体が簡単に中島の腕の中に引き寄せられて、中島は空いているほうの
手を私の頭にあてた。
「…わかんねーけど、俺だって佐藤のことが気になってどうしようもねーん
だよ、だから」
耳元で囁く中島の声は心臓にまで響いて、全身の力が抜けてしまいそうに
なるのを必死に堪える。
「もう金子先輩の名前とか出すな」
中島の胸に顔を埋めたままでうん、と黙って頷いたら、中島は私を抱く
腕に一層の力をこめた。
それが答え?なんて聞けるわけないけれど、今だけはこうして甘えさせて
ほしい。
初めての恋が、少しずつ動き出した。