あなたのためには泣きません

何あの人！何なの！？
お礼を言わなかったことを怒っているんだろうか。
それにしても失礼！と怒っていると、優菜ちゃんのセリフを思い出す。
佐川さん、失恋しちゃって、傷ついてるんだろうか。それで、機嫌悪いのかも。
そうだとしたら、私と似たようなもんだ。
かわいそう。
と、今度は眉を寄せる。

デスクに戻って一人百面相をする那智を見ながら、修一郎が面白そうに声をあてる

「佐川さんたら、失礼だわ！なんなのよ！
あれ？待って。もしかしたら佐川さんも失恋？だとしたらかわいそう
ってなとこ？」

「アイツ、ブッコロス」

昨日、電話口で時間を作らないことを責め立てる香織に疲れ、咄嗟に
「俺、忙しいんだよ。もっと暇な奴さがせば？」
と言ってしまい、どういうつもりだと今朝駅で香織につかまった。

「だから、もっと恋愛に時間と熱量使える男探せってことだよ。俺、今のスタンス変えるつもりねぇよ」

というと、都合のいい女扱いしたと激高して、アイスティぶっかけられた。

今日は仕事後、フットサルサークルに顔を出す予定をしていたから、パーカーをもってきていた。
本当なら家に戻ってスーツ着替えたかったが、朝一で連絡しないといけない取引先があり、逆にそれ以外は外出予定がなかったので、そのまま出勤してきたのだ。

目立つし、誰かが現場を見ていたらしく、変に声かけられるし、さんざんだった。
その上、ぼんやりした滝沢にまで同情されてしまっては、

「やってらんねぇ」

という心境なのだ。

外をみると朝はあんなに晴れていたのに、いつのまに雲がかかりだした。
そういえば梅雨入りが近いと朝のニュースで言っていた。

都合のいい女、ってなんだよ。

と思いながら、

「佐川さーん。2番、稲石商事さんですー」

という声に受話器を上げた。