あなたのためには泣きません
私は失恋したけれど、髪も切らなかったし、甘いものもドカ食いしなかったし、フランス映画も観なかった。
そのかわり、ただ、仕事をすることにした。
山中さんの製品を会議にかけるのは金曜日。
プレゼン資料はできているけれど、もっと完璧な状態にできないかと何度も何度も練り直した。
それに加えて、後回しにしていた後輩の指導書類もすべて目を通すことにした。
「大森くん、これ、前半いいんだけど、ここから数字根拠があいまいじゃない?」
とか
「安田さん、ここの資料すごくわかりやすいけど、ちょっと古いかな?確か同じ調査が2年前にされてるはずだけど」
とか
「佐賀くん、もう一回この大学教授の論文読み直してみて」
とか、とか、とか、とか
とにかく、山中さんとのことを考えないように。手を動かして、頭を動かして。
泣かないように努めた。
そんな風にして気づけば木曜。
昼前にもう一つ見積もりをつくっておこうと思っていた時、営業部内がざわついた
特に男性が。
と思うと、入り口から美しい声が
「滝沢さん、いらっしゃいますか?」
として、振り向いた先に、涼香ちゃんがいた。
「あ!涼香ちゃん!」
取り次ごうとする後輩男性を遮りながら、駆け寄ると
「那智、昼休み役員フロアまで来て」
悠然とほほ笑むとクロエの香水の風を巻き起こして去っていった。
「涼香さん、キレイっすねー」
一緒に見積もり作成をしていた大森くんが魅せられたようにつぶやいた。
「本当にねぇ。」私も思わずつぶやく。
めったに上がらない役員フロアは、絨毯の毛足が長い。
涼香ちゃんはよくあんな細いヒールでここを悠然と歩けるものだと思う。
廊下で待っていた涼香ちゃんは、手招きをすると部屋に案内してくれた。
「ここ、入って怒られない?」
と、私がおそるおそる言うと
「いいのよ。職権乱用部屋よ。」
と涼やかに言い放つ。
そして、そのテーブルには、色とりどりのランチメニューがのっていた。
「これ!どうしたの?」
驚く私に
「那智、あなた今朝何食べた?」
と、腕を組みながら涼香ちゃんが尋ねる。
「今朝、、、?コーヒー飲んだよ」
「じゃあ、昨晩は何食べた?」
え?昨日??昨日って、、、何食べたっけ?
21時まで佐賀くんと論文読んでて、、、帰って、お風呂入って、、、、
「あれ?忘れてる?」
というと、涼香ちゃんはため息を吐いて(ちなみにそのしぐささえ美しい)
「忘れてるんじゃないの。食べるのを忘れてんの」
と言った。
そうだった、たしかにそうだった。
「優菜がね、那智が食事もせず、とりつかれたように仕事してるって言ってきたのよ」
「優菜ちゃん?って、、、、優菜ちゃん?」
「そう、総務の。あの子私の大学時代のチアリーディング部の後輩なのよ」
そうだったんだ。って、もしかして!
「もしかして、山中さんのこと優菜ちゃんに言ったの涼香ちゃん!?」
というと、
「言わないわよ。あの子大学の頃から探偵並みに推理力があるのよ。那智の行動パターンから分析したのよ。きっと」
という。怖いのは総務部じゃなかった。優菜ちゃんだった。
そういえば優菜ちゃんの苗字は「明智 あけち」だったように思う。
まさか、、、、、!
「那智のことだから、忘れるように動いてるんでしょうけど。さすがに食事しないのはだめ。
そうじゃないと、、、、」
と、女優さんのような顔を近づけて
「その奥ゆかしい胸が、さらに恐縮するわよ」
といった。
この人は、悪魔だ。
そのかわり、ただ、仕事をすることにした。
山中さんの製品を会議にかけるのは金曜日。
プレゼン資料はできているけれど、もっと完璧な状態にできないかと何度も何度も練り直した。
それに加えて、後回しにしていた後輩の指導書類もすべて目を通すことにした。
「大森くん、これ、前半いいんだけど、ここから数字根拠があいまいじゃない?」
とか
「安田さん、ここの資料すごくわかりやすいけど、ちょっと古いかな?確か同じ調査が2年前にされてるはずだけど」
とか
「佐賀くん、もう一回この大学教授の論文読み直してみて」
とか、とか、とか、とか
とにかく、山中さんとのことを考えないように。手を動かして、頭を動かして。
泣かないように努めた。
そんな風にして気づけば木曜。
昼前にもう一つ見積もりをつくっておこうと思っていた時、営業部内がざわついた
特に男性が。
と思うと、入り口から美しい声が
「滝沢さん、いらっしゃいますか?」
として、振り向いた先に、涼香ちゃんがいた。
「あ!涼香ちゃん!」
取り次ごうとする後輩男性を遮りながら、駆け寄ると
「那智、昼休み役員フロアまで来て」
悠然とほほ笑むとクロエの香水の風を巻き起こして去っていった。
「涼香さん、キレイっすねー」
一緒に見積もり作成をしていた大森くんが魅せられたようにつぶやいた。
「本当にねぇ。」私も思わずつぶやく。
めったに上がらない役員フロアは、絨毯の毛足が長い。
涼香ちゃんはよくあんな細いヒールでここを悠然と歩けるものだと思う。
廊下で待っていた涼香ちゃんは、手招きをすると部屋に案内してくれた。
「ここ、入って怒られない?」
と、私がおそるおそる言うと
「いいのよ。職権乱用部屋よ。」
と涼やかに言い放つ。
そして、そのテーブルには、色とりどりのランチメニューがのっていた。
「これ!どうしたの?」
驚く私に
「那智、あなた今朝何食べた?」
と、腕を組みながら涼香ちゃんが尋ねる。
「今朝、、、?コーヒー飲んだよ」
「じゃあ、昨晩は何食べた?」
え?昨日??昨日って、、、何食べたっけ?
21時まで佐賀くんと論文読んでて、、、帰って、お風呂入って、、、、
「あれ?忘れてる?」
というと、涼香ちゃんはため息を吐いて(ちなみにそのしぐささえ美しい)
「忘れてるんじゃないの。食べるのを忘れてんの」
と言った。
そうだった、たしかにそうだった。
「優菜がね、那智が食事もせず、とりつかれたように仕事してるって言ってきたのよ」
「優菜ちゃん?って、、、、優菜ちゃん?」
「そう、総務の。あの子私の大学時代のチアリーディング部の後輩なのよ」
そうだったんだ。って、もしかして!
「もしかして、山中さんのこと優菜ちゃんに言ったの涼香ちゃん!?」
というと、
「言わないわよ。あの子大学の頃から探偵並みに推理力があるのよ。那智の行動パターンから分析したのよ。きっと」
という。怖いのは総務部じゃなかった。優菜ちゃんだった。
そういえば優菜ちゃんの苗字は「明智 あけち」だったように思う。
まさか、、、、、!
「那智のことだから、忘れるように動いてるんでしょうけど。さすがに食事しないのはだめ。
そうじゃないと、、、、」
と、女優さんのような顔を近づけて
「その奥ゆかしい胸が、さらに恐縮するわよ」
といった。
この人は、悪魔だ。