あなたのためには泣きません
役員会議が終わると、私はスマホをもって、廊下を歩いていた。
涼香ちゃんのように職権乱用部屋を持たない私にとって、唯一思い当たる人気のない部屋に向かって。
資料室1は、限りなく昔の製品資料が収められている部屋で、今となっては歴史的意味をもつその資料たちを掘り返す人は皆無と言っていい。
私はその部屋に入り、最奥の窓辺に立つと、大きく深呼吸をした。
私はこの1週間泣かなかった自分に対して、最後に泣くことを許すことにした。
きっと、山中さんは会議の結果が気になって待っているに違いない。
早く知らせてあげたい。
そして、私の気持ちを伝えたい。
そう思いながら、発信ボタンを押す。
電話口に出た女性に社名を告げると、すぐに山中さんに取り次がれた。
「もしもし!?滝沢さん!?」
「山中さん!採用です!採用されました!」
と口ばやに言うと、電話の先から「やったー!!!」と喜びの声が聞こえてきた。
私にはわかる。今、山中さんがどんな顔をしているか。
どんな風に笑っているか。顔なんか見なくても、私にはわかる。
「ありがとうございます!滝沢さんのおかげです!」
と言う山中さんに、私は言葉を続ける。
「とんでもないです。山中さんのご尽力の結果ですよ。」
と。
言わなきゃ、ちゃんと。言わなきゃ。
私はもう一度息を吸うと、
「山中さん、私、お伝えしたいことがあるんです。先日、お伺いした時にお伝えできなかったこと」
と、切り出した。
「はい?」
と、聞き返す山中さんに、私は少し震える声で
「ご結婚、おめでとうございます」
と、言った。
「え!?ありがとうございます!」
と返す山中さん。
胸が痛い。好きです。山中さん。
「先日は、びっくりしてしまって、ちゃんとお祝いをお伝えできなかったかと」
私もずっと好きでした。あなたが。
胸の中では違う言葉を紡ぎながら
「今度、改めてお祝いさせてくださいね」
と言うと、自分の靴のつま先を見た。
いやだ。私のそばにいてください。
私を愛して下さい。
心での叫びは、もちろん山中さんに届くはずはない。
「とんでもないです!何よりの結婚祝いをいただきましたよ!」
と屈託なく言う山中さんに
「そういってもらえると嬉しいです。新婚旅行、楽しんできてください。お土産、楽しみにしています」
と伝えた。
「ありがとうございます!」
と締めくくって、通話終了ボタンを押した後、私は崩れ落ちた。
涙があふれて止まらない。
西日の差し込む資料室で膝を抱えて私は泣いた。
一人で、と思っていたら。突然
「それでいいわけ?」
と。声がした。
溢れる涙に顔を上げることはできなかったけれど、きっと佐川さんだ。
「いつからいらしたんですか」
「ん〜、ご尽力のあたり?」
と、言うことはほぼ全部聞かれていたと言うことだ。
「なんで言わねぇの?自分も好きなんだって」
平坦な声で尋ねる佐川さんに、私は肩を震わせ、泣きながら答える
「言ったら、、、、山中さんはびっくりします。
そして、きっと自分を責めます。どうして気づかなかったのかって。
そんな思いして欲しいわけじゃないんです。山中さんが幸せなほうがいい」
きっと、佐川さんはさも面倒くさそうな顔をしているのだろう。
幼稚な恋に。
独りよがりな私に。
もう切り上げようと立ち上がり、顔を上げると、すぐそばに佐川さんがいた。
腕を対面する資料棚にかけて、本当にすぐ私の横にいた。
涼香ちゃんのように職権乱用部屋を持たない私にとって、唯一思い当たる人気のない部屋に向かって。
資料室1は、限りなく昔の製品資料が収められている部屋で、今となっては歴史的意味をもつその資料たちを掘り返す人は皆無と言っていい。
私はその部屋に入り、最奥の窓辺に立つと、大きく深呼吸をした。
私はこの1週間泣かなかった自分に対して、最後に泣くことを許すことにした。
きっと、山中さんは会議の結果が気になって待っているに違いない。
早く知らせてあげたい。
そして、私の気持ちを伝えたい。
そう思いながら、発信ボタンを押す。
電話口に出た女性に社名を告げると、すぐに山中さんに取り次がれた。
「もしもし!?滝沢さん!?」
「山中さん!採用です!採用されました!」
と口ばやに言うと、電話の先から「やったー!!!」と喜びの声が聞こえてきた。
私にはわかる。今、山中さんがどんな顔をしているか。
どんな風に笑っているか。顔なんか見なくても、私にはわかる。
「ありがとうございます!滝沢さんのおかげです!」
と言う山中さんに、私は言葉を続ける。
「とんでもないです。山中さんのご尽力の結果ですよ。」
と。
言わなきゃ、ちゃんと。言わなきゃ。
私はもう一度息を吸うと、
「山中さん、私、お伝えしたいことがあるんです。先日、お伺いした時にお伝えできなかったこと」
と、切り出した。
「はい?」
と、聞き返す山中さんに、私は少し震える声で
「ご結婚、おめでとうございます」
と、言った。
「え!?ありがとうございます!」
と返す山中さん。
胸が痛い。好きです。山中さん。
「先日は、びっくりしてしまって、ちゃんとお祝いをお伝えできなかったかと」
私もずっと好きでした。あなたが。
胸の中では違う言葉を紡ぎながら
「今度、改めてお祝いさせてくださいね」
と言うと、自分の靴のつま先を見た。
いやだ。私のそばにいてください。
私を愛して下さい。
心での叫びは、もちろん山中さんに届くはずはない。
「とんでもないです!何よりの結婚祝いをいただきましたよ!」
と屈託なく言う山中さんに
「そういってもらえると嬉しいです。新婚旅行、楽しんできてください。お土産、楽しみにしています」
と伝えた。
「ありがとうございます!」
と締めくくって、通話終了ボタンを押した後、私は崩れ落ちた。
涙があふれて止まらない。
西日の差し込む資料室で膝を抱えて私は泣いた。
一人で、と思っていたら。突然
「それでいいわけ?」
と。声がした。
溢れる涙に顔を上げることはできなかったけれど、きっと佐川さんだ。
「いつからいらしたんですか」
「ん〜、ご尽力のあたり?」
と、言うことはほぼ全部聞かれていたと言うことだ。
「なんで言わねぇの?自分も好きなんだって」
平坦な声で尋ねる佐川さんに、私は肩を震わせ、泣きながら答える
「言ったら、、、、山中さんはびっくりします。
そして、きっと自分を責めます。どうして気づかなかったのかって。
そんな思いして欲しいわけじゃないんです。山中さんが幸せなほうがいい」
きっと、佐川さんはさも面倒くさそうな顔をしているのだろう。
幼稚な恋に。
独りよがりな私に。
もう切り上げようと立ち上がり、顔を上げると、すぐそばに佐川さんがいた。
腕を対面する資料棚にかけて、本当にすぐ私の横にいた。