あなたのためには泣きません
那智が泣き伏しているベンチの斜め向かいのカフェでは、尊と修一郎がテラス席でコーヒーを飲んでいた。
テーブルの上においた尊のスマホが先ほどからひっきりなしにメッセージの受信を通知している。
「おーおー。忙しいラインだこと」
からかうような修一郎の言葉に
「うっぜぇ」
頬杖をついたまま、さも憎らしそうにスマホをにらみつける尊
「香織ちゃん?」
「たぶん、いや、、、、たぶん。うん。香織」
香織は半年前から付き合っている尊の彼女だ。
「なんだよその間は」
修一郎は面白そうに眉を上げる。
「なんだよ?喧嘩中?」
「違う。と、思う、たぶん」
「なんだそれ」
とうとうスマホを裏返してしまうと、尊はテーブルの上のアイスコーヒーをすする。
「会いたいんだと。昨日行ったよ。部屋。俺、今日そっから出勤したんだけど」
「仲良くやってんじゃん」
「で、もう会いたいんだって。俺、そんな暇じゃねぇよ」
イライラした時のくせで子どものようにストローを噛みながら愚痴る。
「それが恋ってもんじゃねぇの?」
修一郎は同じくアイスコーヒーを飲み、顔をしかめるとガムシロップをドバドバと注いだ。
甘いのは顔だけじゃないようだ。
「恋、、、ね。いい大人だよ。俺ら。相手の都合ってもんがあるだろ」
その時、修一郎のスマホが着信を知らせる。
「もしもし。あ、岡田先輩。お疲れさまです。え、あ、今日でしたっけ?いや、忘れてたわけじゃないですよ。20時でした?もちろん行きますよ。」
愛想よく言いながら、眉はしかめられている。器用な顔だ。
通話相手の岡田は二人の大学時代のフットサルサークルの先輩で、今も何かと付き合いがある。
「尊ですか?そうでしたっけ?あ、はいはい。ちょっと待ってください。今別行動なんで、折り返し電話します」
尊はいつもながら、よどみなく嘘をつける修一郎の技に感心する。
こいつの言うこと、半分くらい嘘だもんな。
電話を切ってから、目を覆い修一郎が言う。
「忘れてた。今日、20時から岡田先輩のコンパ誘われてんだった。M化粧品の美容部員の」
「おつかれ」
少しも興味なさそうな尊に
「いや、お前もメンバー入ってるよ」
「はぁ!?」
目を見開く尊。
そういえばこの前のOB試合の時にそんな話が出ていたことを思い出した。
香織に今夜も会うことを断るいい理由になるかとチラッと思ったけれど、めんどくさい。
それに本当であれば会社に戻って、プレゼン資料をまとめないといけないのだ。
「どっちもうぜぇ」
天を仰ぎながら言ったとき、前の通りのざわめきが耳に入ってきた。
「おねぇさん、何泣いてんのー?」
「どうしたのー?大丈夫ー?」
という男たちの声に対して
「大丈夫です!泣いてません!」
「いや、もう帰ります!」
と抵抗する声。
ふと声のほうを見ると、、、、
あれ?あいつ、滝沢?
身を乗り出してみてみると、なんだかわからないけれど、涙で化粧ぐちゃぐちゃになった後輩と、それを取り囲む学生たちがいた。
「泣いてるじゃーん!俺たちはなしきくよー!」
「遊びにいこうよー!」
夕方からすでにアルコールが入っているのか、もしくはいなくてもそのテンションを維持できるのか、男たちは滝沢に絡み続ける。
「や、離してください!困ります!」
滝沢が半泣きの声を上げる。
あーあ。なにやってんだよ。めんどくせぇ。
けど、いいかも。
そう思いながら、トイレにたっている修一郎の戻るのを待たずに、カフェの生垣を超えた。
テーブルの上においた尊のスマホが先ほどからひっきりなしにメッセージの受信を通知している。
「おーおー。忙しいラインだこと」
からかうような修一郎の言葉に
「うっぜぇ」
頬杖をついたまま、さも憎らしそうにスマホをにらみつける尊
「香織ちゃん?」
「たぶん、いや、、、、たぶん。うん。香織」
香織は半年前から付き合っている尊の彼女だ。
「なんだよその間は」
修一郎は面白そうに眉を上げる。
「なんだよ?喧嘩中?」
「違う。と、思う、たぶん」
「なんだそれ」
とうとうスマホを裏返してしまうと、尊はテーブルの上のアイスコーヒーをすする。
「会いたいんだと。昨日行ったよ。部屋。俺、今日そっから出勤したんだけど」
「仲良くやってんじゃん」
「で、もう会いたいんだって。俺、そんな暇じゃねぇよ」
イライラした時のくせで子どものようにストローを噛みながら愚痴る。
「それが恋ってもんじゃねぇの?」
修一郎は同じくアイスコーヒーを飲み、顔をしかめるとガムシロップをドバドバと注いだ。
甘いのは顔だけじゃないようだ。
「恋、、、ね。いい大人だよ。俺ら。相手の都合ってもんがあるだろ」
その時、修一郎のスマホが着信を知らせる。
「もしもし。あ、岡田先輩。お疲れさまです。え、あ、今日でしたっけ?いや、忘れてたわけじゃないですよ。20時でした?もちろん行きますよ。」
愛想よく言いながら、眉はしかめられている。器用な顔だ。
通話相手の岡田は二人の大学時代のフットサルサークルの先輩で、今も何かと付き合いがある。
「尊ですか?そうでしたっけ?あ、はいはい。ちょっと待ってください。今別行動なんで、折り返し電話します」
尊はいつもながら、よどみなく嘘をつける修一郎の技に感心する。
こいつの言うこと、半分くらい嘘だもんな。
電話を切ってから、目を覆い修一郎が言う。
「忘れてた。今日、20時から岡田先輩のコンパ誘われてんだった。M化粧品の美容部員の」
「おつかれ」
少しも興味なさそうな尊に
「いや、お前もメンバー入ってるよ」
「はぁ!?」
目を見開く尊。
そういえばこの前のOB試合の時にそんな話が出ていたことを思い出した。
香織に今夜も会うことを断るいい理由になるかとチラッと思ったけれど、めんどくさい。
それに本当であれば会社に戻って、プレゼン資料をまとめないといけないのだ。
「どっちもうぜぇ」
天を仰ぎながら言ったとき、前の通りのざわめきが耳に入ってきた。
「おねぇさん、何泣いてんのー?」
「どうしたのー?大丈夫ー?」
という男たちの声に対して
「大丈夫です!泣いてません!」
「いや、もう帰ります!」
と抵抗する声。
ふと声のほうを見ると、、、、
あれ?あいつ、滝沢?
身を乗り出してみてみると、なんだかわからないけれど、涙で化粧ぐちゃぐちゃになった後輩と、それを取り囲む学生たちがいた。
「泣いてるじゃーん!俺たちはなしきくよー!」
「遊びにいこうよー!」
夕方からすでにアルコールが入っているのか、もしくはいなくてもそのテンションを維持できるのか、男たちは滝沢に絡み続ける。
「や、離してください!困ります!」
滝沢が半泣きの声を上げる。
あーあ。なにやってんだよ。めんどくせぇ。
けど、いいかも。
そう思いながら、トイレにたっている修一郎の戻るのを待たずに、カフェの生垣を超えた。