浮気 × 浮気
私は息をするのも忘れて、ずっと木嶋さんの視線に捉えられ続けていた。
そうすれば木嶋さんは徐に口を開いた。
「……おれ、明里さんがすき」
まるで吸い込まれそうな視線に私は息を飲んだ。口から上手く言葉が発せそうになくて、私は1度きつく唇を結んだ。
ーーと、その直後。
________♪ ♪
私の着信音がなった。
その音に我に返った私は、今度こそ強く木嶋さんを跳ね除けた。
それに驚いた表情をしながらも、木嶋さんは私に鞄を差し出した。わざわざ持って出てきてくれたらしい。
私は一言震える声で「ありがとう」と告げたあと、着信源を確認した。
「………陸」
私は独り言のようにそう呟いたあと、着信を取りもせず切りもせず、そのまま鞄の中にしまい込んだ。
なぜか妙に冷静な気持ちになって、私は木嶋さんに口を開いた。
「今日はごめんね。また明日ね」
私はそれだけ言い放つと、木嶋さんにそそくさと背を向けた。
私を呼ぶ声が何度か背後からしたけれど、私は決して振り向かなかった。
振り向いたらダメだ、甘えてしまう。
頬を生温い液体が伝う中、私はただひたすら自分の拳をぎゅっと握りしめたのだった。
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