浮気 × 浮気
何も注文していなかったものの、何も言わず店からあんな風に飛び出すのは失礼だと思い、何度も陸に戻るよう説得するけれど、ビルから出ようと足を速める陸には、まるで声は届いていない。
あまりにも強く強引に握られた手首は、駆け込むようにして乗り込んだエレベーター内でも離してくれる気配はない。
……明らかに、陸の様子がおかしい。
私はそう思いながら、ゼェゼェと肩を大きく上下に揺らす陸の後ろ姿を見つめた。
表情は見えないけれど、なんとなく…怒っているということは一目瞭然で。
何に腹を立てているのか見当もつかなかった私は、陸の気を逆撫でしないようゆっくりと口を開いた。
「陸、どうかしたの?なんでそんなに」
そこまで言いかけた時、私に背を向けていた陸が徐に私へ体を向けた。
「……でくれ」
「え?」
小さく呟かれた言葉をもう一度聞き返せば、私の手首を掴んでいた手を離し、今度は私を強引に引き寄せた。