浮気 × 浮気
車に揺られ、約1時間ちょっと。
緊張が加速する中、取引先へと到着した。
営業の前澤さんに続いて受付を済ませた後、社長室へと通される。
厳かな雰囲気を漂わせているそこは、立派な家具が数多く置かれていた。
「すまないね、わざわざ足を運んでもらって」
そう言って私たちの前にゆっくりと腰をかけたのは、この会社の社長さんだ。
「いえいえ!こちらこそ貴重なお時間を頂き、誠にありがとうございます」
丁重に頭を下げる前澤さんにつられ、私もゆっくりと頭を下げた。
そんな軽い挨拶を終えると、私達は本題へ入った。
内容は取扱わせて頂く資材の契約についてだ。
私のよく分からない専門用語を並べながら、話は順調に進められていく。
確かに私は毎回この会社についての資料を作成してはいるが、与えられたものを淡々と計算したり、写したりしているだけで、専門的な事は全く知らないし、教えられてもいない。
もし話を振られたらどうしよう…なんて終始思いながらも、あたかも全て熟知しているような顔でウンウンと頷きながら話を聞く。
そしてようやく話が整い、終盤へ差し掛かって来た矢先、不意に社長の目が前澤さんから私の方へ移動した。
嫌な予感がして、背筋が凍る。
「君はさっきから何も言わないけど、どう思ってるんだね?」
笑っているようで目の奥は笑っていないのが丸わかりだ……。何も意見を言わないから、不思議に思われたのだろう。