浮気 × 浮気
明里が事故に遭ったあの日。木嶋に、明里とはもう会わないでくれと言ったのは、明里を木嶋に取られるのが怖かったからだ。
このままもし木嶋が明里と一緒にいれば、絶対に明里は木嶋を好きになると…そう確信している自分がいたからだ。
本当は分かっていた。明里のそばにいていいのは、もう俺ではないことを。明里が求めているのは、木嶋だということを。
だから、明里が木嶋を忘れてくれていたのはとても好都合だった。
これなら何も無かったかのようにして、またもう一度明里と始められると思った。
思ったのに……明里が1番助けを求めている時に現れるのは木嶋で、この俺じゃない。男に絡まれた時の事だって、俺が聞かなきゃ明里は話そうとすらしなかった。
ーーそして、今のこの状態も。
傘を忘れたのであろう明里に傘を傾けたのも、抱き上げたのも、全部俺じゃない。
明里の目には今、木嶋しか映っていない。
明里は俺に気づかないまま、木嶋に抱き寄せられ俺から遠のいていく。
それはまるで、心の距離まで離れていくようで。
足は鉛のように重く、視界は酷く滲み、歪んでいる。
乾いた頬を生温い液体がスっと伝った。
ただ突っ立って追いかける事すらできない俺は、とてつもなく情けなくて最低で、どうしようもなくバカだ。
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《秋本 陸side END》