浮気 × 浮気
「…ありがとう」
そんな柔らかな声が心地よく耳を通ったのと同時に、俺の頬を一筋の涙が伝った。
「好きでした、本気で…」
つい零れてしまったその言葉に、明里さんが肩を揺らす。ハッとした俺は、咄嗟に明里さんを体から離した。
そしてすぐさま立ち上がり距離をとると、慌てて口を開く。
「もう日も遅いので、とりあえず今日は帰ってください。タクシーとりますから」
俺は明里さんの言葉を待つことなく個室を飛び出ると、タクシーを手配した。
そして、明里さんの事は優愛に頼み、俺は仕事を再開させた。
明里さんは俺になにか言いたげな顔をしていたけれど、わざと目が合わないよう避けた。
明里さんと会わない。
もう会わない。
それが、明里さんを傷つけない方法。
去っていく明里さんの後ろ姿を見ながら、俺はさよならと口を小さく動かした。
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《木嶋 暁side END》