浮気 × 浮気
「……怒ってない。朝は眠いんだ、放っておいてくれ」
私に少しも視線をやることなく、適当に言葉を放った陸に私は思わず足を止めた。
それに気づいた陸が呆れたように足を止めると、ようやく私の方へ視線を投げる。
「明里、俺は朝から喧嘩なんかしたくない」
そうため息混じりに言って再び足を進めようとする陸の服を私は咄嗟に掴んだ。
それでも尚、私に顔を向けようとしない陸の背中に声を投げかける。
「昨日、雨の中ずっと待ってたんだよ。なにか一言あってもいいんじゃないの…?」
別にこんな事が言いたかったんじゃない。仕事で仕方なかったんだと分かってるし、謝罪を強要したかった訳でもない。
だけど、一方的に怒りを向けられる事に腹が立って、つい感情的に言葉を放ってしまった。
「……明里はどうなんだよ。なにか俺に言うことはないのか」
「……は?」
「俺に隠してることはないのか」
私に背を向けたまま、淡々と言葉を並べる陸。