浮気 × 浮気

「またなにか分かったら私からアンタに連絡するから。」


そう言ってくれた優愛さんと私は連絡先を交換し、私は「ありがとうございます」と深深と頭を下げた。


私を心配そうに見る優愛さんに見送られながら、私はそうして居酒屋を出た。


連絡もつかず、居酒屋にもいない。

それ以上、私は木嶋さんの事を何も知らない。どこにいるのかも全く見当もつかない。

私は改めて木嶋さんの事を全く知らなかったんだと思い知った。


私が辛い時、いつも木島さんは私を助けてくれた。絶対傍にいて励ましてくれた。


〝『好きでした、本気で…』〟


木嶋さんの柔らかくて切なげな声が頭の中で何度も木霊する。

あんなに近い距離にいたのに、どうして私は思い出せなかったのだろう。


もう一度、…もう一度だけでも木嶋さんに会いたい。私の気持ちをちゃんと伝えたい。


日が落ち始め、暗くなってきた夜の街を私はひたすら走った。もしかしたら、ここら辺にいるかもしれない…そんな期待を抱きながら。


ーーーけれど、木嶋さんの姿はどこにも見当たらない。

もうすぐ8時を回ろうとしているのに。

もう、私は木嶋さんに会えないの?
木嶋さんを傷つけたまま、私はもう木嶋さんとさよならなの…?


グッと込み上げてくる思いに、私は必死に蓋をする。

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