浮気 × 浮気
ドキッ、と心臓が嫌な音を立てる。
出るか…出ないか、正直迷った。
今更雪の声なんか聞きたくないというのが本音だ。……だけど、ここで無視をして雪から逃げていいのか。
仕事を辞めて全く会えなくなってしまった雪、私が何度電話をかけても一切出てくれなかった雪。
そんな雪からの電話…。
冷静に話し合わないまま縁を切ってしまっても本当にいいんだろうか。
私は後悔しないのだろうか。
そんなことを考えている間も、掌で携帯は鳴り響き続ける。
ドキドキと心臓は加速して、額に変な汗まで滲み始める始末。
通話ボタンまであと少しの所まで震える指先を近づけるものの、そのあと一歩がなかなか踏み出せない。
そう戸惑いを繰り返していれば、着信音はいつの間にか鳴りやんでしまい、私の耳にはその残響だけ残った。