浮気 × 浮気


…………しかし、その時。


「明里」


背後から聞き覚えのある声が聞こえて、私はビクリと背筋を伸ばした。


振り向かなくても、顔を見なくてもわかるその可愛らしい声は、紛れもなく……あの、雪のもので。


「ちょうどここの店で飲んでたら、明里が走ってるの見えたから」


未だ雪に背中を向けたままの私に、雪はそう言葉を紡いだあと、「電話も掛けたんだけど」とボヤいた。


声が徐々に私の方へ近づいていることから、もうすぐ後ろに雪がいるのだろうと私は小さく息をもらした。


…………さすがに逃げるのはだめだろう。


そう思った私は、恐る恐る雪の方へ体を向けた。


そうすれば、いつも通りの雪が私の前で微笑んでいて軽くゾッとしてしまう。

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