浮気 × 浮気
携帯を取りだし、画面を確認すると、そこに表示されていたのは彼氏の秋本 陸(アキモト リク)の名前だった。
私は咄嗟に通話開始ボタンを押し、携帯を耳に当てた。
「もしもし?陸?」
「あーもしもし明里、俺だけど」
いつもより暗い声色の陸に不安を覚えながらも、「どうしたの?」と言葉を返す。
「あのさ、ごめん…今日会えなくなった」
「……え、?」
「急に仕事が入ってさ、本当にごめん。何度も上司に相談したんだけど、無理で。記念日なのに、本当にごめん」
あまりのショックですぐには声が出なくて、少しの間を作ってしまう私。
だけど、しょうがない、仕事なんだからしょうがない…と何度も自分に言い聞かせながら、やっとの思いで言葉を紡いだ。
「いやいや、仕事優先しなきゃだめでしょ!気にしないでホントに!また違う日にしようよ!ね?」
わざと明るく言うと、陸はホッとしたように「ありがとう」と呟いた。
それから静かに電話を切った後、なんとも言えない思いで心がいっぱいになった。
……だけど、記念日だってことはちゃんと覚えてくれてた。それだけで十分だ。
なんとか頭を切り替えると、私は思い足取りで改札口を出たのだった。