浮気 × 浮気
彼女もそろそろ戻らないと行けないだろうし、明里を呼び出すにはもうこれがギリギリの時間だと焦ったからだ。
俺は彼女にあっさりと背を向けると、既に手に持っていた携帯から明里に電話を掛けようとした。
……がしかし、それは彼女に携帯を奪われた事によって阻止されてしまう。
そしてその矢先、急に腕を握られたかと思えば、人気のない方へと強引に連れてこられた。
「ちょ…!なんなんですか?」
不審な彼女の行動に驚いた俺は、唖然とした表情で彼女を見つめた。
口元も目も綺麗な弧を描き、とても自然な笑顔を浮かべたまま彼女は口を開いた。……目の奥が笑っていないのは確かだったが。
「私、明里とは仲良いんですけど決して仲が良くはないんです」
「………………は?」
「簡単に言えば〜明里は私の事好きみたいなんですけど、私は好きじゃないんですよね」
つい先程まで上がっていた彼女の口角は、今は下がりきっている。感情が分からないほどに無表情だ。
「……何が、言いたいんですか」
「明里が幸せなの見てると腹が立って仕方がないんですよ」
嫌な予感がして、唾を飲む。