浮気 × 浮気
……………そして、俺は目を疑った。
なぜなら、俺の目の前にあの女がいたから。
俺の体に跨るようにして俺を上から見下ろす女の目には、まるで色はない。
予想もしていなかった状況に、俺はあまりに驚きすぎて声が出かった。
「びっくりしましたか?だけど、貴方が悪いんですよ。ここのホテルの鍵、落として行っちゃうんですから」
「うそ…だ、」
まさか、携帯を探すために、鞄を漁ったあの時に落としてしまったのか?と思考をグルグルと巡らせる。
……けれど、今はそんなことどうでもいい。
とりあえずこの女をどうにかしなければ。
そう思い、体を起こそうとした時だった。
「…っん」
唇に生暖かい感触がした。
思考が停止して、体が動かなくなる。
そんな俺を他所に、女は角度を変えながら何度も何度も俺にキスを落とした。
わざとらしく声を出す女に、虫唾が走る。
俺は咄嗟に女を押し退けると、財布から金を抜き出し、ベットに投げ捨てるように置いた後、急いで部屋を抜けた。
何度も何度も唇を服の裾で拭いながら、俺はホテルを飛び出した。
嫌な感触が唇を支配している。
冷たい風が俺を容赦なく襲い、心まで吹き荒らした。
その日の翌日も、その翌々日も。
俺は明里に電話することが出来なかった。
〝山下 雪〟
俺が眠っている間に勝手に登録したのであろうその見知らぬ名前に気づいたのは、それから少し経った日の事だった。
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