【完】狂犬は欲望中毒。
言いながら、背中を見せて雪紅が集まる場所へと戻ろうとする有栖川さんに
綺麗な花を摘みたがっていた男達が、我先にと話しかける。
あっという間に姿が見えなくなっちゃった。
すごい人気。
そりゃあそうだよね、あんな綺麗な人とお近づきになれるならなりたいよ。
……左和季君のことさえなければ。
なんだかドッと疲れちゃった。
私を抱き締めたままの左和季君に凭れて、ため息を吐く。
「悪い、面倒事に巻き込んじまったな」
「左和季君のせいじゃないよ……。
それにしても、蛇狼の総長さんってどこにいるの?」
やっと有栖川さんに解放されてホッとした瞬間、気になるのは蛇狼のこと。
そもそも有栖川さんは、蛇狼の総長さんに挨拶しにいこうとしてたんだよね。
その総長らしき人が見当たらないのは、どうしてなんだろう。
「総長ならあっちだ」
「へっ?」
左和季君が指差した方をなぞるように見ると。
少し離れた場所に、一台の怪しげな黒塗りの車が停まっていた。
「……集会に、顔出さないの?皆ここにいるのに」
「あまり人前に出たがらないタイプでな。
こうやって遠くから見物してんだよ。」
「それってありなの?」
「他のチームには示しがつかねぇが、そもそも決まり事とか堅苦しいのは嫌いな集団だからな蛇狼は。
別に他の奴らに目つけられようが、総長の好きにすればいい。」
「へぇー、左和季君にそこまで言わせるなんて。
好きなんだねその人のこと」
「別に、嫌いじゃない。蛇狼は居心地いいからな。
まあ、飽きるまではいてやるよ」
「そういうとこだけ素直じゃないよね左和季君って。」