【完】狂犬は欲望中毒。
背中を見せ、横に手を振る彼はドアを開け閉めし帰っていく。
数秒間、動かずにジッと玄関のドアを見ていた。
雨音と今さっきまでこの部屋に居た左和季君の気配が消えてくれない。
「……あっ」
どうして怪我したのか、聞きそびれた。
というか、聞いたのに答えなかった彼はきっと隠したかったんだろうな~。
まあ、いっか。
無理に言わせる必要もないし。
それにもう会わない。
頭のなかで思い浮かんだ言葉を確かめようと、急いで洗面所を見ると。
空っぽのはずのカゴには、左和季君の学生服が入れられていた。
「……これって返さないといけないよね」
連絡先は知らない。
でも名前と顔は今日知った。
幸か不幸かで言ったら間違いなく不幸な出会い方によって。
「左和季くん……風邪引かないといいんだけど」
左和季君よりも身長が低いお父さんのスウェットのせいで、お腹が少しだけ見えていたことを思い出しながらそう呟いていた。